『理念と経営』WEB記事

私の「生きるって何?」は、他人に最善を尽くすこと

広島県教育委員会教育長 平川理恵 氏

いま、広島県の教育改革が注目を浴びている。旗を振るのは広島県教育委員会教育長の平川理恵さんだ。日本の教育の問題点、そして子どもたちに必要なこれからの教育とは、一体どのようなものだろうか。

その小学校の教室には「黒板」がない。子どもたちは思い思いの場所に机を運び、学んでいる。

1クラス30人。1〜3年生、4〜6年生の異年齢学級がそれぞれ2つ。先生3人で2クラスを見る。

1日の時間割は大きく2つ。午前中は「ブロックアワー」で国語・算数・社会などを学ぶ。それぞれ自分のペースで計画を立てて進める。午後は「ワールドオリエンテーション」。探究学習の時間だ。みんなで話し合いテーマを決めて探っていく。

この学校、『常石ともに学園』という。広島県福山市立の公立小学校である。日本初の公立のイエナプラン教育実践校として2022(令和4)年4月に開校した。

「小学校1年の子は誰もが漢字を覚えたいし、算数をやりたい。学ぶ意欲があるんです。ところが、その気持ちや気力が途中でポキポキ折れるんです。でも、ここでは折れない。教科書『を』教えるのではなく、教科書『で』教えるからなのでしょうか。みんな『楽しい』って学んでいます」

この学校のスタートアップに関わった、広島県教育委員会教育長の平川理恵さんはそう言うのだ。

平川さんは、大学を卒業してリクルートに就職した。トップ営業パーソンとして活躍し、6年目の1997(平成9)年にアメリカの大学に留学する。日本の教育との違いに驚いたという。

やがて、留学仲介会社を立ち上げた。仕事を通して世界のいろいろな学校を見てきた。その目で日本の学校を見ると、自分の子どもの頃とまったく変わっていない。

「画一一斉教育という感じで、日本の教育はみんな一緒というのを押しつけ過ぎていないか。多様でない教育は、たとえばテストには強いけど人としての深みのない人間を生むようになるのでは……と思いました」

これでは文科省の言う『主体的・対話的で深い学び』や、『個別最適な学び』あるいは『協働的な学び』からはほど遠いのではないか――。

平川さんは公募により、横浜市の公立中学校の民間人校長になった。そこで学校改革、不登校対策、図書館改革などに取り組んできた。

そのなかで、オランダで普及しているイエナプラン教育を知った。子どもたち一人ひとりを尊重し、自律と共生を学ぶオープンモデルの教育である。実際にオランダにも行った。驚いた。まさに一人の子どもに寄り添い、その成長に即した学びの実践だった。

広島県の教育長になったときから、イエナプランの学校をつくれないかと考えていた平川さんは、福山市の教育長や指導主事など総勢6人でオランダ視察に訪れた。教育長就任7カ月目のことだった。

「タイムマシンに乗って未来を見せてもらったと思ってください」

同行者にそう話したという。そこには確かに新しい学校の形があった。



常石ともに学園で学ぶ子どもたち。異年齢のクラスであることによって、上の子が下の子を教えるなど、助け合う環境が自然と生まれている

取材・文 鳥飼新市


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 11月号「人とこの世界」から抜粋したものです。

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