『理念と経営』WEB記事

正しくもがき続ければ、「稼げる」ことに近づいていく

経営エッセイスト 藻谷ゆかり 氏

衰退産業にあっても成長する企業が少なからず存在する。藻谷ゆかり氏は、そうした企業事例を著書『衰退産業でも稼げます』で分析した。成功のカギはイノベーションであり、実現のための 3 つのキーコンセプトがあるという。

衰退産業にこそ学ぶ点が多い

―衰退産業に目を向ける意義は、どんなところにありますか。

地方における産業空洞化は大問題で、製造業はもとより、小売業も危機的です。年間売上が1000万円として、1年ごとに1社が消えれば、10年で1億円の経済活動が消失します。サプライチェーンの一部が欠ける影響も甚大です。じわじわとした地方経済の変化が、気づくと大きな衰退となっているわけです。こうした厳しい環境の中でも、代々の事業を維持し成長している企業が、少なからずあります。そうした企業に学ぶ点は多いと思います。

―成功のカギは、なんでしょうか。

イノベーションです。なかでも、既存技術を活用した用途開発や、販路開拓に取り組んだ結果、成功しているケースが少なくありません。シュムペーターが「新結合の遂行」と唱えたように、技術革新にとどまらない幅広い経営革新によって、シュリンクから脱却しているわけです。

―イノベーション実現への、 3 つのキーコンセプトを導き出しています。まずは「ビギナーズ・マインド」ですね。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏の愛読書『禅マインド ビギナーズ・マインド』(鈴木俊隆、邦訳はPHP研究所)によれば、「先入観なく、まるで初めてのような、新しい視点で見る」といった意味です。能を大成した世阿弥も「初心忘るべからず」と言っています。さらに「離見の見」という言葉も残しています。「さまざまな角度から見る観客の視点で、自分の姿を見よ」ということです。ビギナーズ・マインドを持ち続けることが、新たな気づきを生み、イノベーションの原動力となります。

―ビギナーズ・マインドの獲得には、どんな方法がありますか。

『六方よし経営 日本を元気にする新しいビジネスのかたち』(日経BP)でも書きましたが、越境学習をお勧めします。会社の延長上にはない、全く異なる環境に身を置くのです。禅寺を訪ねてもよいし、ボランティアでもいい。四六時中、自社について考えるのが経営者だとの意見もありますが、視野を広げるには「離見の見」が不可欠です。
若いスタッフの考えや意見に耳を傾けるのもよいと思います。ビギナーズ・マインドをもって話を聞いてみると、意外な発見がありそうです。風通しのよい雰囲気が広がれば、社内の活性化にもつながります。

―次に「増価主義」ですね。

「時を重ねて、さらにその価値が積み重なっていく」というコンセプトです。旅館の成功事例の分析を通じて発見しました。
長野・鹿教湯温泉のある旅館は、代替わりの際、温泉街にある旅館を建て替えるのではなく、郊外に所有していた土地に古民家を移築して、「里山の風景に合う、古くて新しい旅館」をつくりました。オープンから二十余年を経た今、歳月を積み重ねて魅力を増し、予約の取りにくい人気の旅館となっています。

古民家、里山は、ありふれたものですが、長い時間を経ていること、暮らしに根差し息づいていることが、他所とは異なり、価値を増すわけです。老舗が尊重されるように、年月を経てきたものほど価値があるというマインドは、私たちの中に根付いています。

―さらに、地域の強みを磨き上げた商品で他所から顧客を招く「地産外招」を提唱しています。

地域資源を活用して、域外から顧客が買いに来るような製品・サービスを作り出すことです。衰退する地域にあっても、成長を期待でき、顧客と直接触れ合える利点もあります。

取材・文 米田真理子


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 11月号「特集1」から抜粋したものです。

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