『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2023年 11月号
価値を生み出し、大きく育てる

株式会社千石 代表取締役 千石滋之 氏
古き良きものに新しい息吹を与える。そんな「魔法」を実現させているのが株式会社千石(兵庫県加西市)だ。受け継いだブランドを大切に育てるトップの意思と現場の努力が、その魔法を支えている。
強いブランドがあれば大きな柱になる
淡いグリーンのスリムな円筒形のボディ。丸窓から見える青い炎が美しいアラジンの石油ストーブ「ブルーフレーム」。この、時を重ねても古さを感じさせない機能美に憧れるファンは多い。
もう90年も前にイギリスで誕生したアラジンが、いまは日本で作られているのをご存じだろうか。千石が2005(平成17)年にアラジンのブランドと販売権を買収し、自社ブランドとして展開しているのである。
――アラジンブランドを買われた経緯からお聞きできますか?
千石 自社ブランドを持つことが、先代である父の悲願でした。弊社は三洋電機の下請けのプレス加工会社として1953(昭和28)年に創業しました。父は大学を出てから、ずっと創業者の祖父を支えてきたんです。
父の頑張りで部品加工からやがてさまざまな企業のOEMという形で完成品をつくれるまでになりました。ただ下請けですから、お得意先の都合に左右されやすい。父は自社ブランドということをずっと考えていて「センストーン」というブランドで商品開発をしていたりしたんですが、知らないうちになくなっていました。やはりゼロからブランドを立ち上げるのは難しかったようです。
――他社の特許技術や事業などを積極的に譲り受けておられていると聞いています。
千石 はい。事業譲渡の話を持ちかけられると前向きに検討してきました。ゼロから研究開発費をかけずに技術を獲得できますし、事業譲渡で放出されるものなのでコスト的にも安価です。それに、大手ではメリットがなくなった市場でも中小企業にとっては利益が出る規模であったりするからです。
――アラジンブランドもその戦略の一つだったわけですね。
千石 そうです。最初はアラジンのOEMから始めたのですが、ブランドそのものを譲渡したいという話があったときに、父はすぐ当時のオーナーさんとコンタクトを取ったようです。アラジンは石油機器業界では格別なブランドですから、そういう強いブランドがあれば大きな柱になると考えたのだと思います。
以来、アラジンのブランドの名で、いろいろな機器を発売していったのです。
通年売れる商品として生まれたトースター
そんなアラジンブランド製品の中で大ヒットしたのが、2万円近い価格のトースターである。発売は2015(平成27)年。同時期に出たバルミューダのトースターとともに高級トースターブームの火付け役ともなった。すでにトースターの累計販売台数は、290万台を超えるという。
――なぜトースターを?
千石 実は、2012(同24)年にパナソニックさんからグラファイトヒーターの事業譲渡を受けました。これは0.2秒という早さで発熱し、しかもすぐに高温になるという優れた技術でした。グラファイトヒーターを使った電気ストーブも出していたのですが、すべて冬場の商品です。繁閑の差がどうしても出るんです。
―― そこを、なんとか平準化したいということですか。
千石 そうなんです。年間を通して売れる商品を持ちたいということで、調理家電に着目したんです。設計開発から出た案がグラファイトヒーターを搭載したトースターでした。さっそく試作品をつくったのですが、パンが真っ黒焦げになったりして、開発部のスタッフたちは苦労したようです。
しかし不思議とグラファイトヒーターで焼くとパンがおいしいんです。いろいろ温度チューニングをしていくなかで、グラファイトヒーターが出す赤外線の波長が水を温める最適な波長で、人はもちろん食材を温めるのにも効果があることもわかってきました。
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取材・文 中之町新
撮影 宇都宮寿輝
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 11月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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