『理念と経営』WEB記事

社員が笑顔で働く環境を整えることが私の使命

タマノイ酢株式会社 代表取締役社長 播野 勤 氏

粉末酢「すしのこ」やビネガードリンク「はちみつ黒酢ダイエット」など、数々のヒット商品を生み出してきた老舗の酢メーカー・タマノイ酢。心身ともに「健康に働ける環境を作りたい」という播野社長の想いが、健康や体に良い商品づくりにつながっている――。

未利用者は賞与減額⁉ 社内ジム設置の経緯

大阪・堺市にあるタマノイ酢の本社ビルには、従業時間中に社員がいつでも利用できるジムが設置されている。昼食後の13時過ぎ、そのジムを訪れると、若手社員に混じって汗をかく播野社長の姿があった。モニター内のトレーナーの動きを見ながら、ボクササイズを行う播野社長の動きには誰よりもキレがある。

「会社というのは同じ場所、同じ目的のためにみんなが働く、いわば大きな家族のような一つの共同体です。そのトップである経営者が楽しんで運動をしていたら、自然と社員たちも運動を楽しむようになるのではないでしょうか」

播野社長はそう語るが、実はこのタマノイ酢のジム、社員に対して1日30分の利用が義務付けられている。やむを得ない事情がある場合を除き、利用しなかった場合は1分ごとに10円を賞与から減らされる仕組みなのだ。

「ジムを設置したのは、私が個人的にボクササイズを続けていたのを見て、社員から要望があったからでした」

播野社長は言う。それが現在のような仕組みになったのは、社員の求めに応じて福利厚生の施設を作った時、それが日常的に利用されるためにはどうしたら良いか、を考えた結果だという。というのも、以前に社員が家族で利用できるロッジを用意した際、最初こそ利用率は高かったものの、次第に施設が利用されなくなっていったからだ。

「作ったからには利用してもらいたい。それが賞与の査定にジムの利用を加えた当初の理由です。しかし、運動は一度、仕事の日常の中に組み入れられてしまえば、通勤電車に乗るのと同じように『当たり前のこと』になります。忙しいから運動ができないという人は多いと思いますが、業務の中で一つの仕事のように運動を行えば、多くの人が続けられると思います」



ジムで汗を流す播野社長や社員たち。ランニングマシンやサンドバッグ、バランスボールなどさまざまなトレーニング器具が置かれている

主力商品は「ぼー」っとする時間から生まれた

興味深いのは、播野社長にはジムの利用について、「運動というよりも、体を動かして『ぼー』っとする時間を作る」という意図があることだ。

そこには彼の「仕事」や「クリエイティブな働き方」に対する考え方がある。

「人間はデスクワークをしてばかりいると、どうしても視野が狭くなってしまいます。良いアイデアを思いつく時は『気づいたら仕事のことを考えていた』という時が多いのではないでしょうか? そのためには、まず頭ではなく体を動かして、一度、『ぼー』っとしてみるのが良い。勤務中に『ぼー』っとする時間を作るのは難しいものですが、ジムがあればその時間を作り出せるわけです」

全国から所長クラスが集まる会議など、議論がぎこちない時は「ちょっとみんなでジムに行こう」と播野社長が誘うこともある。全員でボクササイズを行って戻ってくると、驚くほど雰囲気が明るくなって議論が活発になるという。

「仕事に行き詰まった時、そのことだけを考えているとアイデアは浮かんでこないものです。一方で休みの日に散歩をしたり、外を走ったりと仕事とは別のことをしている時、ふと思いついたアイデアは意外に有効だったりするものです」

例えば、同社の主力商品である「はちみつ黒酢ダイエット」が開発された時もそうだった、と播野社長は振り返る。

同商品が発売されたのは1996(平成8)年。飲料市場に打って出ようとしたその頃、世の中では「健康」をテーマにした飲み物はまだほとんどなかった。

「新商品開発ではビタミン飲料やコーヒー、ゼリーなどさまざまなアイデアを試しましたが、結局は上手くいかなかった。ところが万策尽き、みんなが考えるのをやめて頭を空っぽにした時、やはりもう一度、酢に戻ろう、という話になったんです。それが『はちみつ黒酢ダイエット』のスタートになったんですね」



ジムの出入り口には冷蔵庫を設置。同社の主力商品「はちみつ黒酢ダイエット」が入っており、飲み放題になっている

取材・文 稲泉 連
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 10月号「特集2」から抜粋したものです。

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