『理念と経営』WEB記事

とうふの未来を楽しみながらつくる

相模屋食料株式会社 代表取締役社長 鳥越淳司 氏

新商品を次々に生み出し、生産能力も日本一を誇る相模屋食料(群馬県前橋市)。鳥越社長は「胸を張って中小企業だと思っています」と語る。その真意とは?

現場を大切にするから「鋭利」になれる

アニメ『機動戦士ガンダム』のモビルスーツの一つ「ザク」。かつて、その頭部をパッケージにした「ザクとうふ」で業界に新風を吹き込んだのが相模屋食料だ。

戦争で夫を亡くした江原ひささんが1951(昭和26)年に始めた豆腐店を、2代目の現会長が年商28億円企業に育て、「ザクとうふ」の発案者で、娘婿でもある現社長の鳥越淳司さんが大きく発展させた。

社長を交代した2年後の2009(平成21)年には業界で初めて100億円の売り上げを突破し、いまでは年商360億円を超える業界1位のリーディングカンパニーなのである。

――入社は何年ですか?

鳥越 2002(同14)年です。その頃、社長(当時。江原寛一・現会長)は日本一の工場を建てたいと第三工場の建設を考えていたんですよ。

――ただ一人、鳥越さんだけが賛成したと伺っています。

鳥越 建設費は結果的に41億円にもなった大工事ですから、周りは大反対でした。私はまだ経営に対する知識もなくて、大きなことをやりたいと賛成していたのですが、「そうか、うれしいな」と社長はすごく喜んでくれました。

――その先代から経営者として学ばれたことは何でしょう?

鳥越 一番は現場を大切にするということです。会長は毎日必ず白衣を着て工場に顔を出していました。その姿から、いかに工場を大切にしているか教えられました。

私は雪印乳業に勤めていたのですが、2000(同12)年に起きた食中毒事件を経験しています。お客様への謝罪に歩く中で、「なぜこんなことが起きたんだ?」と訊かれても答えられない。牛乳のメーカーにいるのにわからないんです。それは自分の大罪だと思いました。これが私の人生の転機になったのですが、余計に会長の現場を大事にする姿勢が心に焼きついたんです。

――ご自身も入社して2年間、工場に入られていたそうですね。

鳥越 ええ。午前1時に工場に行って、毎日おとうふをつくっていました。職人の世界で誰も教えてくれませんから見よう見まねです。いっぱい失敗をしました。どれだけ豆乳を捨てたかわかりません。

――失敗の数だけ成長した、と?

鳥越 そうです。温度をかけ過ぎるとこうなるのか。逆に温度をかけない「青臭い」ってこういうことか……。面白いもので失敗すると職人さんが慌てて教えてくれるんです。本当に一個一個学んでいきました。職人のこだわりやさじ加減は言葉で教えられないんですね。自分の経験を通して学ぶしかない。中小企業は、やる気の世界なんだなとも思いました。

――自分次第ということですか。

鳥越 はい。やる気次第でどんどん伸びていけます。だからすごく鋭利になる。大企業は総合力で押してくるわけですが、私たちは闘い方として鋭利に突破していけるんです。

片道200kmの制約を解消

――工場での2年間は大きな財産になったようですね。

鳥越 大きかったですね。なによりおとうふの奥深さを知りました。おとうふは大豆と水とにがりでつくります。後は、大豆を炊いたり擦ったり、固めたりするだけです。だけとシンプルなものほど奥深いんですね。おとうふの味もわかるようにもなりました。それで、四六時中どうやればおいしいおとうふをつくれるのかと考えるようになったんです。

――おいしい豆腐こそ、豆腐店の身上というわけですね。

鳥越 まさにそうです。どうすればおいしい木綿とうふや絹とうふをつくれるのか。おとうふはできたてが旨いんです。職人さんたちも熱々の状態で味見して、にがりを足そうとか、炊きを強くしようとかとやるわけです。できたてのおとうふは熱いので、冷やさないとパッケージに入れられない。だから水につけるんです。これを熱いままパッケージ詰めできないかと考えたのが「ホットパック製法」です。

――ロボットがパッケージを豆腐にかぶせていく方法ですね。

鳥越 この方法を確立したことで大きな副産物が生まれました。賞味期限が3倍になったんです。豆腐屋は「県内企業」といわれていました。日持ちしないので、片道200kmが圏だということです。ところが、物流さえ整えられれば全国規模にできるポテンシャルを持てるようになったわけです。

――まさにイノベーションを起こしたわけですね。

鳥越 はい。第三工場は日に100万丁のおとうふもつくれます。需要があれば、いくらでもおいしいおとうふを出荷できるという体制が整ったわけです。

取材・文 中之町新
撮影 伊藤千晴


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 10月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

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