『理念と経営』WEB記事

機敏な行動力でたぐりよせる、20XX年宇宙居住の夢

株式会社OUTSENSE 代表取締役/CEO 髙橋鷹山 氏

人類史上初の月面着陸は1969年。もし地球以外の場所で人間が暮らせるようになったら……。そんな思いを胸に抱き、「宇宙に家を建てる」というビジョンを掲げて起業したのがOUTSENSEだ。

なぜ、折り工学が宇宙に向いているのか

OUTSENSEがある東京都大田区は、町工場が集積する日本を代表する「ものづくり企業の街」。同社が入居するのは、大田区が地域産業の活性化を目指し建設した工場アパート(テクノFRONT森ヶ崎)だ。エレベーターで4階まで上がると、倉庫のようなフロアが広がる。複数のものづくり企業の中からネームプレートを見つけ扉を開けると、室内には「ソガメ折り」を用いた大小さまざまな模型が並べられている。

ソガメ折りは、平面の2次元構造を展開する「ミウラ折り」(観光・防災マップなどで使用)を発展させたもので、3次元構造をつくれるというのが大きな特徴だ。折り工学の技術は、既に宇宙空間で太陽光発電パドルにも使われており、安定した展開が可能なことから、今後の宇宙開発においても、必要な技術になることが予想されている。

実際、OUTSENSEに置かれた模型を見ると、折り紙に似ているが、仕上がりの構造は幾何学的で複雑だ。曲線を描くものもあり有機的でとても美しい。

「宇宙空間に飛び出すには、燃料費や積載空間の課題があるのでコンパクトに輸送することが絶対条件。創業期に試作したアルミ製の模型は、直径1.2m、高さ30cmに折り畳んだ状態から、人の手で直径2m、高さ1.2mまで展開できます。バラバラの部品を持っていき、宇宙空間で組み立てるより、折り工学の技術を使って折り畳んで宇宙に持って行けば展開するだけで完成します。将来的には自動で開くようにしたい」

落ち着いた優しい口調で語るのは、代表の髙橋鷹山さんだ。愛媛県出身なので所縁はないが、父親が米沢藩第 9 代藩主の上杉鷹山に感銘を受けたことから、その名が付けられたという。

研究だけで終わらず実現させたい

1994(平成6)年に生まれた髙橋さんは、プロ野球選手を夢見る少年だった。高校は野球の強豪校に入学し、レギュラーではないが甲子園にも出場した。大きな目標を立て、そこに向けて努力する、その経験の積み重ねが髙橋さんの人格を形成していった。

大学は工務店を経営していた祖父の影響で、建築学科を目指した。

そして浪人中に出合った一冊の本『俺たちに不可能はない! 日本のすんごい技術』(中経出版)が、髙橋さんの人生を大きく変えることになる。同書は日本の大手ゼネコンが、月面でのピザ屋出店、宇宙エレベーター建設など夢のようなプロジェクトを実現するために、事業計画を練っている事例が多数紹介されていた。

「その中に宇宙建築物を建てるための工事費や工期などを、大人たちが真面目に考えている話があったんです。未開の地の象徴が宇宙だったんで、そこに強く惹かれました」

大学入学後、地上の建築を学んでいたが、宇宙建築への思いが募り、ある日、他大学だが、宇宙建築の研究に携わる東海大学の十亀昭人准教授にダメ元でメールを送ってみた。十亀准教授はソガメ折りの考案者で、小さく折り畳んだパネルから、展開するだけで円筒形の構造物が立体的に開く「展開構造物」の実用化を研究している。

「丁寧な返信をくださったので、意気揚々として訪ねてみると、十亀先生とは同郷という共通点もあり、すぐに話が弾みました。先生からは『それなら大学院から宇宙建築をやりに来たらどうだい』とアドバイスされました。でも、どうしても我慢できなくなって」

結局大学3年生のときに東海大学工学部建築学科へ編入。宇宙への湧き立つ思いを形にしようと宇宙建築の学生団体を設立したり、同大学院の工学研究科へも進学。さらなる高みを目指し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の特別共同利用研究員として研究室にも入った。

取材・文 篠原克周
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 9月号「スタートアップ物語」から抜粋したものです。

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