『理念と経営』WEB記事

BCPは、中小企業の生存戦略だ――「身の丈」から始めるリスク管理

事業継続研究所 代表 京盛眞信 氏

中小企業には致命的な「顧客離れ」を防ぐBCP

――はじめに、BCPとは何かということについて教えてください。

京盛 BCPが混同されやすいのは、防災計画と何が違うのかという点です。防災計画で最も重視されるのは、「人命の安全と資産の保全」のための被害抑止・軽減です。BCPはそれだけにとどまらない、「会社を存続させる」ためのリスク軽減が目的です。

例えば、印刷工場で火災が発生したとします。防災計画にのっとって迅速に消火活動をして、人命も守り工場を焼失させることなく鎮火できれば、ひとまず安心です。しかし万が一、印刷機械が消火活動によって濡れて動かなくなったことで、業務が当面の間停止してしまえば、会社の存続にも関わる重大問題となります。そうした部分のリスクも軽減することがBCPの目的なのです。

ですから、発動する順番としては、最初に防災計画を発動し、その後にBCPを発動する流れになります。

――なぜ今、BCPが重要なのでしょうか。

京盛 大地震の発生確率については、メディアでよく取り上げられるように、いつ来てもおかしくない状況です。加えて、近年は洪水の発生頻度も全国的に高まっています。そうした状況の中で、BCPがないと会社を存続させることが困難になってしまうリスクが高まるからです。

例えば大地震が発生した場合、従業員や社屋が無事だったとしても、電気やガスや水道などのインフラが停止してしまうと、事前にその対策を考えておかないと企業活動を継続することは困難になります。

特に重要なことは、顧客離れを起こさないことです。工場が稼働できなくなった場合、取引先もしばらくは待ってくれるかもしれませんが、彼らも事業を継続する必要があるので、稼働停止が長引くと顧客はやがて離れていきます。一般的には、災害後3日間連絡が取れないと他の取引先を探すと言われています。

――その間の運転資金も必要ですね。

京盛 そうです。災害時の運転資金は最低3カ月分必要だと言われています。いざという時、金融機関は大企業に対しては貸し出しますが、社屋が倒壊してしまった中小企業に対しては、貸し渋るどころか貸し剥がしをする可能性さえ否定できません。だからこそ、いざという時のための内部留保は、必要なのです。

――中小企業こそBCPが必要だと言えそうです。

京盛 その通りです。大企業は、各地に工場や営業所を持っているのでリスクを分散できますが、中小企業はひとつの市町村に事業所や工場が集まっていることが多いので、大災害が起きると一発でノックアウトされるリスクが高いのです。

「身の丈」のリスク管理で会社の存続率を高めよう

――では、BCPの成功事例にはどのようなものがありますか。

京盛 例えば、私が顧問をしている千葉県のメッキ会社は、2019(令和元)年9月の台風15号で停電などの被害を受けましたが、BCPがうまく機能し、その後の受注が増加しました。

というのは、事前に策定していたBCPに沿って、工場長が取引先のメーカーに半日に1回ずつ電話をかけ、被害状況や復旧の進捗状況を報告し続けたからです。メーカー側からすれば、生産ラインの計画を立てることができるので安心です。その対応が評価され、受注増につながったのです。

取材・文 長野 修
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 9月号「特集2」から抜粋したものです。

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