『理念と経営』WEB記事

第64回/『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』

定評ある就職・転職情報サイトのデータを分析

中小企業経営者の皆さんは痛感しているでしょうが、いまどきの若い世代は、就職・転職先を探す際にも、まずネット検索から情報収集を始めます。
どんな優良企業も、ネット上の情報が乏しければ、最初の段階で選択肢に入れてもらえないのです。

もちろん、ネット上の情報には事実誤認や意図的なフェイクも多く、鵜呑みにはできません。そんななか、就職・転職についての「情報プラットフォーム」として定評があるのが、2007年にスタートした「OpenWork(オープンワーク)」です。

《OpenWorkは日本最大級の社員クチコミ数を誇る。会員数は500万人を突破し、就活生にいたっては約2人に1人が使うほどの就職・転職情報サイトとなっている。また、利用用途は就活・転職だけではなく、国内の研究機関が研究データとして、海外のヘッジファンドが投資データとして活用するほどの品質となっている》

集まるクチコミの品質を担保しているのが、厳しい投稿条件と審査です。
《投稿する企業で正社員または契約社員として1年間以上勤務した人のみが回答可能》、《他の回答やサービスなどからの転用禁止》などの条件をクリアしないと、投稿できません。また、投稿されたクチコミは、機械審査と専門スタッフによる目視審査という2段階の審査を経たうえで公開されます。

そのように厳しくフィルタリングされた良質なクチコミを、過去10数年にわたって集積してきたOpenWork。同社の膨大なデータを分析して、よい企業の条件を浮き彫りにするのが、今回取り上げる『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』なのです。

本書は、社員・元社員のクチコミで高い評価を集めた企業を、19のカテゴリーに分けてランキング。各カテゴリーごとにトップ20社を実名で紹介しています。

設定された19のカテゴリーには、《「人事評価の適正感」が高い》《「チームワーク」が良い》などの社風にまつわるものもあれば、《「20代で成長」できる》、《30代「年収アップ」幅が大きい》などの年代別カテゴリーもあります。

また、《「営業職」が選んだ超優良企業》などの職種別や、《「女性が働きやすい」》企業、《ベンチャー企業から選ぶ超優良企業》など、多角的なカテゴリーが用意されています。

著者の大澤陽樹氏は、OpenWorkを開発・運営する「オープンワーク株式会社」の社長です。氏は、各カテゴリーの上位企業はどのような点が評価されているのかなど、ランキング結果を分析する“解説者”としての役割を果たしています。

中小企業の採用活動改善にも役立つ

以上の説明を読んで、「そういう本が、なぜ『経営に役立つ一冊』なの?」と首をかしげる向きもあるでしょう。

しかし、本書はただ単に、就職・転職先を探す人にとってのみ有益な内容ではありません。経営者にとっても学びの多い一冊なのです。
なぜなら、どんな企業が社員から高評価を得ているのかというポイントがわかれば、そのポイントに沿って自社を改善することもできるからです。

じっさい、著者も読者として経営者も想定していると明言しています。

《本書は、主に次の3タイプの読者をイメージしながら、「すぐに、楽に、役に立つ」 をテーマに書き上げました。

(1) 失敗のない就職・転職をしたい皆さま(10 代・20 代の方だけでなく、30 代・40 代・50 代の方向けのコンテンツも用意しました)
(2) 企業価値・業績がこれから上がりそうな会社を探す個人投資家・機関投資家の皆さま
(3) 今より良い会社・組織をつくりたい経営者・人事部の皆さま》

人手不足が深刻な昨今、「よい人がなかなか来てくれない」と採用に悩みを抱えている中小企業は多いものです。
本書を読んで「なるほど。いま就職・転職先を探している人たちは、こういう点を重視するのか」と傾向がつかめれば、対策も立てやすいでしょう。

各カテゴリーで上位にランクインした企業の多くは大企業ですが、中小企業もやるべきことは基本的に変わらないはずです。

企業経営の「べからず集」でもある

本書はタイトルのとおり優良企業の紹介がメインですが、もう一つの側面があります。
それは、ランキング上位企業の特徴紹介のあとに、そのカテゴリーでスコアが低い企業の特徴が併せて紹介されていることです。

たとえば、《「チームワーク」が良いトップ20社》の特徴が紹介されたあとには、《チームワークが悪い企業》の特徴が紹介されるのです。そこには、次のような解説が付されています。

《「チームワーク」スコアを構成する「社員の相互尊重」と「風通しの良さ」の両面で低評価を受けている企業では、「トップダウン」「顔色・機嫌うかがい」「殺伐」など、「縦・横のコミュニケーション欠如」に関するクチコミが散見された。
 「トップダウン」というキーワードが出ている会社でも高評価の会社はあり、その違いは「納得感」にあるようだった。十分なコミュニケーションがあった上でのトップダウンであれば、従業員も納得感を持ち、業務に取り組んでいることがうかがえた》

上位企業は実名で紹介されていますが、さすがに低評価の企業については差し障りがあるため、実名が伏せられています。
それはともかく、各カテゴリーの「評価の低い企業」の特徴も解説されていることで、本書の内容にはいっそう深みが生まれたと言えるでしょう。

本書は、「こういう会社を目指しましょう」という「お手本集」であると同時に、「こんな会社になってはいけません」という「べからず集」としての色合いも併せ持っているのです。

社員・元社員の膨大な「生の声」から、よい企業・悪い企業の条件を詳細に浮き彫りにする、稀有なデータ集である本書――。
中小企業経営者にとっても、多くの示唆を与えてくれる一冊になるでしょう。

大澤陽樹著/東洋経済新報社/2023年1月刊
文/前原政之

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