『理念と経営』WEB記事

後継ぎ不在の町工場を継いだ「第三者」の挑戦

株式会社新家製作所 代表取締役 山下公彦 氏

少子高齢化に伴い、親族内承継だけではなく、第三者承継も増えてきている。同社の山下さんはその好事例だ。前職のIHIでの経験を生かして売り上げを2倍にした山下さんの第三者承継の苦労と新たな挑戦。

第二の人生は培った経験を生かせる環境へ

親族でもなく、従業員でもない第三者が事業を承継する。2020(令和2)年7月に石川県で新家製作所の社長に就任した山下公彦さんは、そのモデルケースだ。エンジニアとしてIHIに就職。航空機エンジンの生産管理などの管理職として経験を積んだ後、55歳で早期退職した。

「会社員生活は充実していましたが、長い人生、これからは自分の時間を最大限に生かしたい、と思うようになりました。もっと貢献できることがあるのでは、と」

石川は故郷。だが、家族は東京に拠点がある。ならば、親の近くに一人暮らしする場所と家庭とを行き来する2拠点生活もいいと思った。

「当初は起業を考えていました。経営者は働き方の自由度が高いですから。でも、いろいろ調べているうちに、後継ぎ不在で廃業する会社が多いと知りました。自分の経験を生かせるなら、引き継いで経営をするというのもありだと思うようになったんです」

県の事業承継・引継ぎ支援センターに相談すると、前社長が亡くなり、経営者を探している会社があると知った。これが新家製作所だった。産業用機械の部品を製造していた町工場だ。

「しっかり利益も出ていて、いい取引先もあった。自分が培ってきた経験を生かせば、さらに伸ばしていけると感じました」

ただ、ネックは会社が持っていた巨額の借入金。しかも前社長の個人保証がついていた。これを個人で引き継ぐわけにはいかない。ところが、後継ぎが経営者保証なしで借り換えができる事業承継特別保証制度がちょうど始まったタイミングだった。

「金融機関は、後継ぎがいれば返済期間の相談にも応じると言ってくれていました。実際、期間は2倍の長さになりました」



同社ではプラントの取水口などで使われる産業用チェーンを機械加工から仕上げまで一貫生産している

従来の経営課題を改革――BtoCにも参入する

社長に就任してすぐに動いたのが、補助金の申請。設備はある程度揃っていたが、新しい機械があれば、新しい領域に踏み込めると直感していた。

「産業で伸びている領域はどこか。前職では、そういう分析をやっていました。改めて調べてみると、年率7%の成長をしている領域がありました。建設機械分野です」

事業再構築補助金などで新たな設備投資を行い、工場も新しい事業に対応できるようレイアウトを変えた。同時に人を増やした。特に、すでに技術をある程度持っているベテランを複数採用した。

「実は技能伝承も町工場の課題なんです。典型的な人依存。1人の親方がすべてを動かしていたりする。ここに若手を入れても仕方がありません。柱となるリーダーをまずは増やしていかないといけない」

さらに不採算事業とも向き合った。長い歴史の中で惰性的に行われてきた事業があり、赤字になっているものもあった。正直に取引先に申し出て、前職の見積もりのやり方なども踏まえて、単価を上げてもらった。

「発注量は減りましたが、単価が上がった分、売り上げは変わりませんでした。どうも、中小企業は儲けてはいけない、という思い込みがあるような気がします。でも、最低賃金ギリギリで働くような労働環境では、従業員は幸せになれないし、継続性が保てません」



いまや従業員は11人から19人に増え、若手からベテランまで幅広い世代の社員が働いている

取材・文 上阪徹
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 7月号「特集1」から抜粋したものです。

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