『理念と経営』WEB記事

困難に鍛えられた兄弟経営の強さ

株式会社ミヤジマ 代表取締役会長 宮嶋誠一郎 氏/代表取締役社長 宮嶋俊介 氏

後継ぎとして育てられた兄と、孤軍奮闘する兄を支えるために中途入社した弟――。度重なる逆境の中で鍛え上げられてきた「宮嶋兄弟」の結束に迫る。

シャフトが折れる重大事故を機にISOを取得し、品質管理を徹底

ミヤジマは、「シャフト(回転軸)」を専門に手掛ける鍛造メーカーとして94年の歴史を誇る老舗だ。

同社が飛躍したきっかけは、創業者・宮嶋源次氏が「宮嶋式弁棒鍛造」という独自技術を生み出し、1954(昭和29)年に特許を取得したことにある。

それは、通常は製品ごとに金型を作る鍛造品を、標準金型を組み合わせて作れるようにした技術である。金型を一から作る手間が省け、型代削減・短納期・小ロット対応が可能になった。いまや標準金型は1000種以上にのぼり、あらゆるシャフトに対応可能だ。特許取得から70年近くを経てなお、ミヤジマのコア技術であり続けている。

だが、3代目の宮嶋誠一郎氏(現会長)が入社した1989(平成元)年ごろには、同社は赤字体質に陥っていた。社員は高齢化し、新分野への進出もないまま、日本経済の低迷も始まっていたからである。

長男として、子どものころから後継ぎとして育てられた誠一郎氏は、会社を改革しようと懸命になった。だが、その途上で大きな逆境に直面する。1995(同7)年に、大手建機メーカーから請け負って作ったブルドーザーのシャフトが折れる重大事故が起きたのだ。原因は、鍛造時の温度管理の甘さであった。

「事故で取引停止になっても仕方なかったのに、先方はうちを見捨てず、品質管理担当のベテラン社員を送り込んでくれたんです。ありがたいことでした。その方がうちに通いつめて、品質管理のいろはを教えてくれました。とくに徹底されたのは、製造過程のトレーサビリティー(追跡可能性)と標準化、現場の安全管理です。その鍛えのおかげで、うちの会社はやっとまともな製造業になれました」(誠一郎氏)

ミヤジマは2000(同12)年に、品質保証の国際規格「ISO9002」を取得した。当時の社員は16名。その規模の会社の取得は異例であった。

「『小さな会社に、そんなもんいらんやろ』とよく言われましたが、全製品の品質に責任を持てる会社になるため、絶対に必要だと考えたのです」(誠一郎氏)

事故という逆境を改革の原動力に変え、「町工場からメーカーへの飛躍」を目指したのだ。



品質保証の国際規格「ISO 9002」を2000年に取得。さらに03年には、設計開発を含む「ISO 9001」に更新した

今度は重油流出事故が勃発――その時よぎった一つの言葉

現社長の俊介氏は、誠一郎氏より10歳下の弟である。兄とは対照的に家業に入る気はなく、大手通信会社を経て、自ら商売をすべくアパレルやバーの店長など畑違いの仕事に就いていた。

だが、誠一郎氏が2002(同14)年に社長に就任後、休日返上で毎日深夜まで働く様子を父(先代の公夫氏)が見かねて、「会社に入って、兄ちゃんを助けてやってくれんか?」と懇願。そこで、翌2003(同15)年に入社したのだ。

「入社後しばらくの間が、僕にとっての逆境でした。やる気満々で帰ってきたものの、今まで鍛造のことはもちろん、技術のことはまったくの素人だったので、兄からはボロクソに叱られることも多々ありました。少しでも見返したいと得意の営業で注文を取ってくれば『こんな仕事できるか!』と職人たちに怒られ、仕事がなければないで『仕事とってこい!』と文句を言われ……。人生で初めて悔し涙を流しました」(俊介氏)

そうした壁をようやく乗り越えたころ、ミヤジマを大きな逆境が襲った。2007(同19)年に、工場の発電機に燃料の重油を供給する配管の部品が破裂し、周辺に大量の重油が流出する事故が起きたのだ。

「設備業者の設計ミスが原因でしたが、会社として責任を負わねばなりません。河川に流出した重油がその先の琵琶湖に流れ込んだら、巨額の賠償問題になるのは必至で、倒産の文字も頭によぎりました」(誠一郎氏)

流出した重油の量は、なんと7200リットル/ドラム缶36本分に及んでいた。

「警察、消防、役所の人たちが次々にやってきて、『流れた量はどれだけか?』と詰問されました。少なめに言ってごまかそうかという思いが、一瞬頭をよぎりました。でもその時、尊敬する稲盛和夫さん(京セラ創業者)の『経営の原点12カ条』の第9条『勇気をもって事に当たる――卑怯な振る舞いがあってはならない』が浮かんで、思いとどまったのです。正直に申告し、『たとえ会社が潰れても、損害はすべて賠償する』と覚悟を決めました」(誠一郎氏)

幸い、琵琶湖への重油流出は免れた。事故への対応はその後3年間に及んだが、設備業者が保険に入っていたことも幸いし、倒産の危機には至らなかった。下手に流出量をごまかしていたら、事態はもっと悪化していただろう。



シャフトは回転運動部分を持つ機械において欠かせない重要な部品で、自動車、産業機械、鉄道車両など、さまざまな分野で用いられる

取材・文・撮影 編集部
写真提供 株式会社ミヤジマ


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 7月号「逆境!その時、経営者は…」から抜粋したものです。

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