『理念と経営』WEB記事

主力を広げ新商品を生む5代目の多角化戦略

竹下製菓株式会社 代表取締役社長 竹下真由 氏

コロナ禍で「いよいよ関東進出!」とSNSを皮切りに大きな反響を巻き起こした九州のソウルフードアイス『ブラックモンブラン』。先導したのは、同社の5代目・竹下真由さんだ。竹下さんが語る後継者に必要な「新しいものを生み出す力」。

子どもの頃から家業を継ぎたかった

理系の最難関大学の一つ、東京工業大学大学院を修了。世界最大級のコンサルティングファーム・アクセンチュアで4年働いた後、家業に戻ったのが、竹下製菓の5代目社長、竹下真由さんだ。新たな生産拠点づくりや多角化経営を進め、佐賀の女性経営者の代表格となっている。

会社の設立は1927(昭和2)年。69年に祖父が開発したアイス『ブラックモンブラン』が九州で爆発的にヒット。超ロングセラー商品になり、今も年2000万本以上を製造、「九州のソウルフード」として知られている。他にも冷菓、菓子製造、さらにホテル事業も展開。一人娘だった竹下さんは、家業を継ぎたいと子どもの頃から考えていたという。

「アイスはとてもおいしいし、みんなをハッピーにできる仕事。幼い頃から工場にも出入りしていましたし、当たり前にそう思っていました」

ただ、親から継いでくれ、と言われたことは一度もなかった。

「親戚の人からは、いずれはお婿さんを取って社長になってもらわないといけない、みたいに言われたこともあって。むしろ、本当に継がせてもらえるのか、と心配でした」

転機は高校入試。県外に進もうとした竹下さんは、父親からアドバイスされる。

「いずれ地元でビジネスをやるなら、県内の学校に行っておいたほうがいい、と。このとき初めて、継がせる気があるんだな、と思ったんです」

ロボットコンテストに憧れ、東京工業大学に進みたいと話すと、機械いじりが好きだった父は快く賛成してくれた。高校入試のとき以降、会社を継ぐ話が直接、出てくることはなかったが、ときどき父の意思を感じていた。

「帰省すると、ちょっとこの決算書を見ておいてくれと言われたり、業界誌のここの部分を読んでおいてくれと言われたりしました」



半世紀以上愛され続けている『ブラックモンブラン』。祖父の小太郎前会長が、アルプス山脈の最高峰「モンブラン」を眺め、「この真っ白い山にチョコレートをかけて食べたら、おいしいだろう」と思いついたのがきっかけで作られたという

コンサルで経験を積み、右腕(パートナー)を連れて帰郷する

大学院を卒業後、一度は外で働いて経験を積みたいという話にも両親は理解を示してくれた。当初、考えていたのは、家業と関係するメーカーや商社だった。ところが「早く就活が始まるから練習として受けておいたほうがいいよ」と先輩にアドバイスされ、外資系企業の一社としてアクセンチュアと出合う。

「働くとしても最長5年と思っていました。それなら、できるだけ忙しく働き、たくさん経験ができる会社がいい。当時のアクセンチュアは、他社の2倍の経験ができる、が売り文句でしたので」

年数を決めていたのは、父の年齢を心配していたから。生まれたのは、父が45歳のとき。ゆっくりはしていられないと思っていた。それでも就職したのは、実は経験を積む以外に、もう一つの目的があったからだ。人生の、そして経営のパートナーを見つけること。

「大学時代から、いずれは佐賀に戻るので、一緒にビジネスをやってくれる人生の伴侶を探している、と公言していました。就職してからも、それは同じでした。佐賀に戻った後では、パートナーを見つけることは相当に難しいと思っていたからです」

そして猛烈なハードワークの中で出会ったのが、会社の同僚だった今の副社長である夫・竹下雅崇さんだ。結婚が決まったこともあり、佐賀に戻ることを決めた。最初に父である社長に夫婦で希望したのが、生産ラインで働くこと。自社が経営するホテルのホールスタッフの仕事も担った。

「現場がわからないと何ごともイメージができないですから。現場でしか聞けない話もある。これは経験して良かったと思っています」

東京の外資系企業から戻ってきて、1年近くもゼロから現場で始めたことは、周囲の見方も変えたに違いない。そして会社についても冷静に見つめていた。

「割合ちゃんとやっている会社だな、と。もちろん気になることは変えていきましたが、大きな改革のようなことはしていません。それより、社員が安心して働ける会社にしていくことを強く意識していました」

変革の取り組みがあったとすれば、「会議のときは何か発言しましょう」と伝えたこと。意見を求めたこともあった。そのうち、自発的な発言が増えていった。

「そうすると、例えば発表する部門長もしっかり応えないといけませんし、それなりの準備もしないといけなくなります。多少なりとも、活性化したと思っています」



佐賀県小城市にある工場内の様子。ブラックモンブランが生産ラインに乗って次々と製造されていく

取材・文 上阪 徹
撮影 編集部
写真提供 竹下製菓株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 7月号「特集1」から抜粋したものです。

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