『理念と経営』WEB記事

おいしい一杯のためにやれることは全てやる

株式会社サザコーヒー 代表取締役 鈴木 太郎 氏

サザコーヒー(茨城県ひたちなか市)は、地元はもちろん、県外にもその名をとどろかせる人気店。ファンを惹きつけてやまない理由は、どこにあるのか。

手間ひま惜しまず“質”を追求

JR常磐線・勝田駅から10分ほど歩くとサザコーヒー本店に着く。朝10時の開店から、もう来店客がある。柔らかい木漏れ日が入る庭のテラス席も含め、座席は90席。夜8時の閉店まで来客が途切れない。

コーヒーのメニューだけで25種類以上もあり、豆は世界各地の契約農園から取り寄せる極上品だ。何より世界一と評価の高いコーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」も味わえるのである。軽食やスイーツもおいしく、茨城県内はもとより県外からもリピーターが絶えないという。

―本店にはパン工房も併設されているそうですね。

鈴木 ええ。コーヒーに合うおいしいパンを焼こうと思ってパン屋を始めたんです。世界で1番コーヒーを消費しているのはブラジルなんです。最大のコーヒーの生産国であり消費国です。じゃ、どこでコーヒーを消費しているかというと、パン屋なんです。

―パン屋さんですか?

鈴木 ポンデケージョ(チーズパン)と一緒に、砂糖とミルクを入れた甘いコーヒーを飲むんです。僕はコーヒーのためなら何でもやろうと思っていて、コーヒーに合うパンを提供したいと思ったんです。いろいろ考え、うどん用の十勝小麦を使っています。クロワッサンもモカクリーム入りのモカパンも、外はパリっと中はもちもちでコーヒーによく合います。いい豆同士を合わせるとおいしいブレンドになるように、おいしいパンやスイーツと一緒だとコーヒーはさらにおいしくなるんです。

―コーヒーのおいしさとは何でしょう。やはり香りですか?

鈴木 もちろん味もありますが、香りが重要です。コーヒーのいい香りがすると、しあわせな気分になるでしょう。僕が香りに求めるのはフレッシュさです。サザコーヒーの「カップオンドリップ」は、封を開けた瞬間にドーンとコーヒーの香りが立つんです。

―これまで1年だった賞味期限を3年にされたそうですね。

鈴木 4年前から筑波大学大学院の農産食品加工研究室に通っているんです。修士のときにコーヒーの劣化を防ぐ研究をしてフレッシュさを保つパッケージを開発したんです。いまは博士課程で焙煎の研究をしています。

―その目的は何ですか?

鈴木 豆の旨さを最大限に引き出したいんです。コーヒーの質の追求のためには手間ひまを惜しまないというのが、父の代からの姿勢です。僕は自分がおいしいと思うものを提供していきたい。いわば「やさしいお節介」かもしれませんが、豆の保存法や焙煎、淹れ方も研究して最高のものをお客様に出したいんです。

―それもサザコーヒーが掲げる「しあわせの共有」ですね。

鈴木 そうです。いい香りのおいしいコーヒーをゆっくりと味わう。その時間は、しあわせな時間だと思いませんか。

“南米行き”を機にコーヒーの世界へ

サザコーヒーの創業は1969(昭和44)年。映画館を経営していた父親の誉志男さん(現会長)が斜陽化する映画の他に何かもう一つの柱を持とうと、小さな喫茶店を始めたのだった。

店名は、表千家の心得があった誉志男さんが臨済宗の禅語「且坐(サザ)喫茶(さぁ、座ってお茶でも楽しんでください)」という言葉からつけたものだ。「コーヒーに安くておいしいは存在しない」を信条に、いい豆を仕入れ丁寧に淹れてきた。89(平成元)年には映画館を閉館し、本店に改装した。7坪から始めた喫茶店は、いま17店舗になっている。

―東京農業大学で果樹栽培を学ばれていたそうですね。

鈴木 はい。茨城は面白い所でミカンとリンゴが生るんです。僕は、その土地柄を活かして果樹農園をやりたかったんです。

―ところが、卒業(2000年)と同時に入社されますね。

鈴木 半分は父の策略にハマった感じです。農大の3年のときに「グアテマラに行ってこい」と言われたんです。父がコロンビアに自社農園を買ったころです。

―スペイン語は話せました?

鈴木 いえ。もう必死で覚えました。グアテマラのアンティグアというコーヒーしかない町です。そこに1人で2週間いたのですが、することがないので変わった色のコーヒー豆だけを集めて自分で焼いてみたりして、自然にコーヒーに興味を持つようになっていったんです。

―入社するとコロンビアの自社農園を任せられますよね。

鈴木 卒業までにこういうことが何回かあって、入社前にはコーヒーのことがだいたいわかるようになっていたんです。僕は果樹の選抜増殖が得意だったんですが、結果的にコーヒーでそれをやるようになったわけです。

―なるほど……

鈴木 僕は師匠を見つけるのも得意で、コロンビアの国立コーヒー生産者連合会の品質管理部長にいろいろ教わったり、連合会の研究所で香りや味について学んだりもしました。コロンビアのコーヒーの品質評価表をつくった人物やバリスタの公認審査員をしている
アメリカのスペシャルティコーヒー協会のテクニカルスタンダード委員会委員長とも交流を深めて、僕もコーヒー豆の品評会の審査員をやるようになりました。



  サザコーヒー本店の入り口

取材・文 中之町 新
撮影 鷹野 晃


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 7月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

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