『理念と経営』WEB記事

「タイパ」の時代はビジネスをどう変えるか?

フロンティア・マネジメント株式会社 代表取締役 松岡真宏 氏

若い世代を中心に、時間を有効に使う「タイパ(=タイムパフォーマンス)」消費が広がっている。時間価値は、どう変化しているのか。それをビジネスにどう活かせばいいのか――。『時間資本主義の時代』(日本経済新聞出版社)の著者、松岡氏に聞いた。

時間の奪い合いが始まった

――著書『時間資本主義の時代』を刊行されたのは、コロナ禍の前でした。

松岡 最初の気づきは10年ほど前、若手コンサルタントと話をしていて「すすぎが1回で済む洗濯洗剤がヒットしている」と聞いたことでした。節水やコンパクトさを売りにしていた洗剤だったのに、消費者に最も喜ばれていたのは、時短だったんです。しかも、せいぜい10分ほどなのに、です。

実はそれ以前から、自分のスケジュールを眺めていて感じていたことがありました。私は社内にスケジュールを公開していて、秘書をはじめ、いろんな人が予定を入れていくのですが、まるでテレビ広告の枠のようだと思ったんです。いずれ自分の時間を奪い合うゲームが、どこでも始まるんじゃないか、と。その競争がよりシビアになる。

これを決定的にしたのが、スマホの登場でした。スマホによって、「スキマ時間」が使えるようになった。昔も、スキマ時間に文庫本を読む、なんてことができましたが、事前に用意したことしかできませんでした。2011(平成23)年頃からスマホが普及し始めたことで、事前に用意していないことを移動しながらできるようになりました。歩きながら電話したり、街の中で株価の動きをチェックしたり……、しかも、自分だけではなく、それが周囲の全員で起こっている。世の中のスピードが一気に上がったんです。

今の若い人は、スキマ時間をフル活用しています。車を持たない若者が増えていますが、運転中はスマホが使えないからです。スキマ時間が使えないと不便なんですね。そしてコロナがやってきて、リモートワークが拡大、スキマ時間はもっと生産性が上がった。時間が極限まで突き詰められるようになりました。

ネットでは出会えない価値

――ただ、「時間が節約できること」だけが価値なのではない、と主張されています。

松岡 これまで商売の基本的な考え方は、商品やサービス自体の価値と価格のバランスでした。ところが、そこに時間価値が入ってきた。その一つが効率化による節約時間価値です。文房具は近くのコンビニですぐに買える、というのがそうですね。一方で、大切な時間をかけてでもいいから、そこで過ごしたいという価値もあるんです。創造時間価値です。

例えば、中古品売買の「ブックオフ」「ハードオフ」というお店があります。今や中古の商品は、ネット上でいくらでも買えるわけですが、それでもリアル店舗が存在しています。聞けば、毎日のように来る顧客がいるのだそうです。理由は、掘り出し物が出てくることがあるから。そういう商品と遭遇するワクワク感。それを求めて、リアルなお店に行くわけです。これは節約時間価値ではありません。宝探しのように欲しかったものと出会える創造時間価値です。



取材・文 上阪徹
写真提供 フロンティア・マネジメント株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 6月号「「タイパ」の時代は…」から抜粋したものです。

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