『理念と経営』WEB記事

「信じ抜く厳しさ」が、部下をもっと成長させる

武蔵野大学 経営学部経営学科 准教授 宍戸拓人 氏

パワハラが問題視され、「優しい上司」が支持される傾向にある昨今。一方、ストレスの少ない職場に成長実感を得られず、退職してしまう若者も増えている。今の時代、上司の「厳しさ」とはどうあるべきなのだろうか――。スタートアップ企業で製品開発の最高責任者を務めながら、「現場で役立つ経営学」を追究し続けている宍戸さんに話を聞いた。

素晴らしい上司の“厳しさ”とは?

――部下の能力を最大限に生かすために、上司はどのようなコミュニケーションを心がければよいでしょうか。

宍戸 言うまでもありませんが、コミュニケーションにこれが正しいという答えはないし、学者が出した答えで問題を解決できるということはほとんどありません。現場を見ながら一緒に考えて答えを出していくやり方が一番うまくいくものです。

――それを前提として、上司が部下を指導するときに、部下の能力や創造性を引き出すために大切なものは何でしょうか。

宍戸 ひとつは、部下の成長につながる“厳しさ”です。素晴らしいリーダーは、「部下よりも上司の方が部下のポテンシャルを信じているが故の厳しさ」を持っています。つまり、部下としては「そんなことは自分には無理だ」と思っていても、上司は「できる」と信じているところから生まれる厳しさです。

例えば、スティーブ・ジョブズをはじめとして、世界の巨大IT企業の創始者たちからビジネスコーチとして尊敬されていたビル・キャンベルなどはまさにそうです。この人から怒られるとなぜか勇気が出る。それは「君はそれが100点と思っているかもしれないが、私は50点だと思う。なぜなら本当の君はそんなものじゃない。どうして自分に限界を置くのか」と相手を信じながら叱咤するからです。

創造性というのは、いわば前提や枠組みを外すところから生まれます。「どうせ自分はこんなものだろう」という前提や枠組みをはめたままだと、創造性は生まれません。その前提や枠組みを叩き壊すためには、「部下のポテンシャルを信じる上司」の厳しい指導が効果的なのです。

――チームで創造的価値を生み出す場合も、そのような上司の姿勢は有効ですか。

宍戸 はい。大前提として、チームの多様性は、全員の意見を等しく同じテーブルに乗せないと価値を生み出しません。例えば、50代の先輩の意見に対して、20代の若手社員が「それは違うと思います」と言うのはなかなか難しい。どうしても「私がしゃしゃり出ても仕方がない」と思ってしまう。集団主義的な日本の企業では、対立よりもコンセンサスを重視しがちだからです。それは結局、ある種の限界を置くことになります。

そこで、上司が「ちゃんと全員が発言したのか? 全員の意見を引き出そうとしたか?」と叱咤しながら、そうしたコンセンサスや枠組みを打ち破ろうとすると、何が起きるか。チームがオープンになります。つまり、「やばいぞ、どうしよう」「来週の会議までに全員分の意見出さなきゃ」という危機感の中で、チーム全員が打開を求めて他者と協力するようになり、オープンな雰囲気ができていくのです。

――逆に、部下の能力や創造性を削いでしまう上司の厳しさとは、どのようなものでしょうか。

宍戸 ポテンシャルが…



図作成:編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 6月号「特集2」から抜粋したものです。

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