『理念と経営』WEB記事

3年かけてブランドの土台から築き、リニューアルを果たす

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

ただパッケージをリニューアルしただけでは売り上げは伸びない――そのことを実感した窪之内社長は、独自技術を駆使した商品のリニューアルに3年半もの歳月をかけ、リブランディング前から売り上げ70%増と大きく躍進を遂げた。新パッケージが生まれるまでの軌跡。

牛の尿が消臭液に!? 父の思いと技術を継ぐ

「牛の尿」を活用したユニークな事業のリブランディングによって、売り上げを急速に伸ばしている企業がある。北海道北見市の環境大善だ。

同社の事業は、ほかに類を見ない。これまで酪農業者が産業廃棄物として処理しなければならなかった牛の尿を買い取り、独自の発酵技術によって天然成分の消臭液「きえ~る」と土壌改良材液「液体たい肥 土いきかえる」に生まれ変わらせるのだ。

この事業は、意外な出会いから始まった。現社長、窪之内誠さんの父で創業者の窪之内覚さんが北見市のホームセンター「ダイゼン」の店長を務めていた時のこと。いとこが「これをかけると作物がよく育つ。園芸の資材として売れないか?」と持ってきたのが、牛の尿を発酵させた液体だった。話を聞くと、「微生物を使って無害化している」という。覚さんが液体に鼻を近づけると、まったく臭いがしない。覚さんはこの時、閃いた。

「微生物が臭いを消す働きをしているのかもしれない!」

犬の尿などで実験を行い、消臭液としての可能性を感じた覚さんは、ダイゼンのオーナーの協力を得て「きえ~る」を開発。意外なほどによく売れたこともあり、定年退職する際、退職金と引き換えに商品の権利を譲り受け、2006(平成18)年に「環境ダイゼン」を立ち上げた。

当時、OA機器の販売会社で営業をしていた長男の誠さんは、「なんでそんなリスクを冒すんだ」と冷ややかな目で見ていたが10年後、父の会社に入社する。

そのきっかけは、ある大手上場企業の代表の一言。その人は「きえ~る」の性能に驚き、「環境ダイゼン」の買収を申し出たが、覚さんは事業を手放さなかった。その際、「わかりました。応援します」と爽やかに引き下がりつつ、その会合に同席した誠さんに「誰かが継がないとこの事業が消えてしまう。『きえ~る』の効果について検証したうえで、継がれることをお勧めします」と助言したのだ。

16(同28)年、環境ダイゼンの取締役に就任した窪之内さんは、すぐに『きえ~る』の消臭メカニズムを明らかにするエビデンスを得るために北見工業大学と共同研究を始めた。同時に手がけたのが、パッケージのリニューアルだ。

「昔ながらのデザインだったので、若い人にも手に取ってもらえるパッケージに変えなきゃダメだと思っていました。その頃にちょうど大手バラエティーショップのバイヤーと商談する機会があり、このパッケージだと都心の客層では難しいから作り替えないかと言われたんです」

この時、「バラエティーショップによくあるような白いデザイン」にしたのだが、期待したほど売り上げが伸びなかった。どうしたものかと思って手に取ったのが、モノづくり企業のコンサルティングを行っている中川政七商店代表、中川淳さんの著書『経営とデザインの幸せな関係』(日経BP)だった。

この本を読んで「ブランディングの本質はコミュニケーション」と感じた窪之内さんは、改めてパッケージを考え直そうとアートディレクターを探した。その過程で巡り会ったのが、北海道を中心に中小企業のブランディングを手がけている鎌田順也さんだ。

窪之内さんは、ミーティングの中で、鎌田さんからの要望もあり過去3年分の決算書を提出した。それに目を通した鎌田さんはいくつか質問した後に、こう告げた。

「リブランディングを含めてパッケージのリニューアルには、3年かかります」

窪之内さんは目を丸くしたそうだが、後になって「この利益と販管費なら、じっくりと時間をかけてブランドの土台から築くことができる」という鎌田さんの見立てが正しかったことを知る。

<BEFORE>



<AFTER>



看板商品である「きえ~る」。バイオマス素材のボトルを使用したサステナブルの「Sシリーズ」、快適な毎日(デイリー)をサポートする「Dシリーズ」、ホームセンターや量販店専用の「Hシリーズ」の3シリーズを現在展開している

取材・文 川内イオ
写真提供 環境大善株式会社


この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2023年 6月号「特集1」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。