『理念と経営』WEB記事
逆境!その時、経営者は…
2023年 5月号
現場主義で培った若き4代目の改革

大衛株式会社 代表取締役社長 加藤優 氏
「大衛は君が継ぐしかないんやで」――その言葉をきっかけに大手商社を辞めて家業に入ると、億単位の赤字と停滞した組織に直面した。4 代目・加藤優社長が前職で学んだ知恵と経験を活かして断行した経営改革に迫る。
後を継ぐきっかけは、祖父の葬儀で言われた言葉だった
大阪市都島区にある大衛は、戦後間もない1951(昭和26)年、「衛生三品」(脱脂綿・ガーゼ・包帯)の製造・販売から事業をスタートさせた。1957(同32)年には、紙綿を脱脂綿の中に入れて吸収性を高めた生理用品を発売。これが創業期の大ヒット商品となった。
その後、大企業が生理用品市場に参入してきたため、路線変更を余儀なくされ、産科・病院用の衛生用品にシフトした。いまでは、産婦人科業界でトップクラスのシェアを誇っている。そこまでのレールを敷いたのが、現社長の祖父に当たる2代目社長・加藤勉氏である。
4代目の加藤優社長は、まだ36歳の若さだ。京都大学薬学部と同大学院で薬学を学び、日本有数の総合商社・伊藤忠商事に就職。世界を駆け回る商社マンとして、ずっと生きていくキャリアを思い描いていた。
その気持ちを変えるきっかけとなったのは、祖父・勉さんが亡くなったときの、葬儀での出来事だった。伊藤忠商事に入社して間もない頃のことである。
「祖父の代からうちの会社で働いて、すでに定年退職された方々が、たくさん参列されていました。みなさん、子どもの頃の僕をよく覚えていて、『いずれは君が会社を継いでくれるもんやと思ってた。商社には君の代わりがたくさんいるだろうけど、大衛は君が継ぐしかないんやで』と……」
それですぐに後を継ぐと決意したわけではないが、その言葉は心に残った。
「僕には姉と妹がいますが、2人とも医学部を出て別の世界に進んだので、継ぐとしたら僕しかいませんでした。『創業家から後継ぎが出なかったら、うちの会社はどうなるんだろう?』と、そのときから真剣に考えました。父からは、『継いでほしい』とは一度も言われませんでしたが……」
そして、伊藤忠商事で4年働いたのち、2014(平成26)年に大衛に入社した。後継ぎとなることを、自らの意志で決めたのだ。
主力商品である産婦人科向けの製品
入社して初めて気づいた在庫の山と1億円の赤字
当時の社長であった父・光司さん(現会長)からは、「生活のこともあるやろうから、役職をつけてやる」と言われた。前職の高給も念頭に置いての配慮であった。だが、優さんはそれをことわり、「一社員として、現場から始めたいと思います」と言った。
「入社していきなり取締役になったりしたら、社員さんとの間に壁ができて、誰も本音で話してくれなくなると思ったんです。それに、現場に入ることの大切さは、前職で叩き込まれていましたから」
そして、三重県津市の工場勤務からスタートした。そこは会社全体の物流拠点・在庫置き場も兼ねていた。
「伊藤忠商事時代、『取引先の倉庫を見る機会があったら、目を皿のようにして見てこい。倉庫を見れば経営状況もわかる』と、よく言われました」
そうした意識で帳簿と照らし合わせて在庫を見ると、売れそうにない商品が山になっていたりして、自社の経営の歪みが見えてきた。また、帳簿を見て初めて、1億円を超える赤字が生じていることもわかった。
「倒産の危機というほどではなかったかもしれませんが、社員の間で『この会社、資金繰りが苦しいらしいし、危ないかもしれない』という噂が出ていたことは事実です。メインバンクが借り換えに応じてくれないとか、危険な兆候もありました」
外から見ていたときにはわからなかったが、入社してみたら、すでに会社は逆境の只中にあったのだ。それを招いた要因はどこにあったのだろう?
「うちの会社は産婦人科業界に大きく依存しているので、少子化の影響をもろに受けたということがあります。それと、社内的な要因としては根深い『縦割り組織』が問題でした。営業・企画開発・製造などの各分野が、それぞれ自分の部門のことしか考えていなくて、会社全体の利益を考える社員がほとんどいなかったのです」
少子化で業界全体のパイが減るにつれ、ジリ貧になってきていた。「このままではまずい」と皆が思っていたが、それを営業は企画開発のせいにし、製造は営業のせいにし……と、他責思考が会社に蔓延していた。
「祖父は道なき道を切り拓いた有能な経営者でしたが、ワンマンな面がありました。一方、父が会社を継いだのは50代になってからでしたから、そこから抜本的な社内改革をするのは難しかったのかもしれません」
その改革が、若き4代目に託されたのだった。
かつて三重県津市の工場内に積まれていた不良在庫の山
取材・文 編集部
写真提供 大衛株式会社
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 5月号「逆境!その時、経営者は…」から抜粋したものです。
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