『理念と経営』WEB記事
企業事例研究2
2023年 5月号
サッカー型組織で顧客満足と社員満足を両立させる

株式会社カワムラモータース 代表取締役社長 河村将博 氏
株式会社カワムラモータース(福井県美浜町)は、県内に「Honda Cars 若狭」を2店舗展開する自動車ディーラーである。各店舗に「店長」という肩書の人は存在しない。その代わり、社員一人ひとりが司令塔となり、顧客の細やかなニーズに応える「サッカー型組織」で運営しているのだ。この組織形態に至った経緯とは――。
新車販売と車検よりもメンテナンスに重点
カワムラモータースの2代目である河村社長は、自動車にまったく興味がなく、事業を継ぐつもりもなかった。しかし、大学4年のとき、創業者の父に促され東京の自動車ディーラー社長に会った。就職の誘いなら断るつもりだったが、「親の恩や期待を真正面から受けとめられないような人間は道の真ん中を歩くな」「ディーラーで一流になれなければ、次の道も拓けないぞ」と言われ、納得してその社長の会社に入った。営業マンとして5年間勤務したのち、カワムラモータースに入社、2006(平成18)年に32歳で社長に就任した。
河村社長はカワムラモータースに入社したときから会社の在り方に疑問を覚えた。
「営業と整備の仕事が分断され、部門間に壁がある。それに社員の意識が内向きに思えたのです」
営業は新車を売ることを目標にし、整備は車検需要の獲得を目標にしている。自動車ディーラーとしては当然の在りようだが、地方では少子高齢化に加えて過疎化も進み、自動車市場は縮小するばかり。「自動車を売るだけの商売ではやがて行き詰まる」と変革の必要性を感じた。
営業と整備が同じ一つの目標に取り組むようにできないものか。そう思った河村社長は「メンテナンス」に重点を置くことにした。
「地方では自動車は日常の足です。通勤や仕事中に不具合が生じるようなことがあれば大問題。そこでトラブルフリーの状態を保つことに全社員で取り組むことにしたのです」
仕組みで顧客との距離を縮める
「新車販売と車検からメンテナンスへの目標転換」の本質は、「企業都合からお客様都合への転換」だと河村社長は言う。
「ディーラーがお客様に働きかけるのは、車検や定期点検、保険の満期日の案内や、新車発売時のキャンペーンやタイヤの特売セールなど、企業側の“都合”によるものばかりです。クルマをトラブルフリーに保つのは、お客様都合が優先になります。ただし実践するにはエンジンオイル、タイヤ、ブレーキパッドなどの交換時期を把握しておくことが欠かせません。1000台のクルマがあればお客様の使い方に応じた1000通りの管理が必要です」
だが、ユーザーの保有車1台ごとの走行距離などを管理できるシステムは存在しなかった。
河村社長は東京にいたとき、師と仰ぐようになった社長から、「これまでトップは背中で社員を率いればよかったが、これからは仕組みで率いる時代になる。その仕組みも、仕事を進めるルールからシステムになる」という教えを受け、勤務後は毎夜、コンピューターの勉強に励んだ。その知識とスキルを生かして自らシステム開発に乗り出し、顧客管理用の独自のデータベースシステムを開発・導入した。
取材・文 中山秀樹
写真提供 株式会社カワムラモータース
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 5月号「企業事例研究2」から抜粋したものです。
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