『理念と経営』WEB記事

企業側の本気度が伝わっているか?

株式会社五合 代表取締役 小川宏二 氏

五合が持つ特殊塗料技術は画期的なものだったが、そのわりに知名度が上がらなかった。
中京大学「坂田ゼミ」とのコラボで開発した商品が反響を呼び、その名が一気に広まった。

「優れた塗料だが……」特殊技術の応用に苦戦

主にキャンプ愛好家から熱い視線を集めている食器がある。その名は「Earth Gear(アースギア)」。食器の表面に霧吹きなどで水を吹きかけて紙でふき取るだけで油汚れもすっきり落ちる特殊な食器だ。洗剤使用禁止のキャンプ場が増えるなか、食器を手軽に洗えるのは大きな魅力。この画期的な食器の原理は、加工時に使用する特殊塗料にある。吹きかけた水がこの塗料と汚れの間に入り込み汚れを浮き上がらせる仕組みになっているのだ。

発売当初、1セット1万円強という強気の価格設定にもかかわらず、クラウドファンディングで売りに出したところ、1カ月で400万円弱を売り上げた。

この特殊塗料は「ゼロ・クリア」という地球環境に優しい無機塗料で、洋食器や厨房設備や洗濯機のドラムなどにも使用されている。この技術を保有しさまざまな製品に展開しているのが、2000(平成12)年創業のベンチャー企業・五合である。
「当社の製品が日の目を見るようになったのはごく最近のことで、10年以上、ゼロ・クリアを使った事業ではほとんど儲けはありませんでした」と語るのは、小川宏二社長。

そんななか、いったいどのようにして「Earth Gear」の誕生とヒットにこぎつけたのだろうか。そこには産学連携から生まれた知恵があった。

もともと小川社長は、下請け電気機器メーカーで電子制御機器の製造などを手掛けていた。現場で働く労働者がその苦労に応じた報酬がもらえるような環境を作りたいと願い、そのためには自社製品を作って特許取得するしかないと思って頑張ったが、なかなか軌道には乗らず。

そんなとき、ある塗装会社の生産管理や品質管理のコンサルを始めた。そこで結果を出したことで愛知県の塗装業界に名前が広がり、やがてある塗料会社から「特殊塗料を開発したが、後継者がいないので事業を引き継いでほしい」との依頼が舞い込んだ。その会社が持っていたのが、無機塗料の技術だった。すばらしい技術だったが、非常に扱いにくい技術であったこともあり、小川社長は躊躇。半年ほど口説かれ続けて、最終的にはその会社が持つ全ての特許について専用実施権の契約を結び、「ゼロ・クリア」という登録商標で販売を開始した。

最初は金属洋食器を販売。さらに、防汚効果に加え抗菌作用を持つことが評価され、大手電機メーカーの洗濯機のドラムや鉄道車両や東京都内の地下鉄駅にも使用されるようになった。しかし、販売はBtoBのみで、画期的な技術のわりには知名度が上がらなかった。

「地球環境に役立つ商品を」純粋な思いが心を動かした

知名度を上げるためには、新たにBtoCの展開が必要だと考えた小川社長は、知り合いのある社長からこんなアドバイスを受けた。「中京大学の坂田先生という方がBtoCの製品に持っていくのがすごく得意だから、一度コンタクトを取ってみたら?」

――結果は、一発で引き受けてくれることに。総合政策学部の坂田隆文教授による坂田ゼミは、学生が何度も泣かされるほどの厳しい指導で知られ、絶対に商品化までこぎつけるという強い意志と熱意があふれたゼミだ。


取材・文 長野 修
写真提供 株式会社五合


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 5月号「特集2」から抜粋したものです。

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