『理念と経営』WEB記事

地域産業を支える廃棄物リサイクル事業を構築

飯田工業薬品株式会社 代表取締役社長 飯田悦郎 氏

地域産業を支えるには、地域の多様な事業者の連携が不可欠だ。原材料商社の飯田工業薬品は、地域の20社以上を自らつないで廃棄物リサイクル事業を構築した。

地元製紙業の先細りへの危機感

静岡県富士市は、製紙業が盛んだ。飯田工業薬品は、地元製紙業に化学薬品を供給してきた。そんな同社が、製紙工程で生じる廃棄物のひとつ、ペーパースラッジ(PS灰)をリサイクルする新規事業を立ち上げたのは、2007(平成19)年のことだ。県内外の運送業者10社、産廃処理・加工業者12社からなるリサイクルシステムを構築。年間約3万トンを受け入れて処理している。製紙会社も含めた連携を実現したわけだ。

富士地区の製紙業の歴史は長い。紙の原料である天然木と水資源が豊かで、東京、名古屋という消費地の中間に位置する地の利もある。富士川上流で盛んだった手すき和紙の技術を背景に、明治のころから近代産業として成長していった。当地での飯田工業薬品の役割を、代表取締役社長の飯田悦郎さんは、次のように説明する。

「古紙を用いた再生紙、なかでもティシュペーパーやトイレットペーパーといった衛生用紙を生産する中堅メーカーが集積しています。原料特質上、生産に工業薬品を使用する工程が比較的多く、排水処理にも多用されます。工業薬品や原料の提供を通じて、富士地区の製紙業の歴史とともに歩んできたのが当社です」

ところが、日本の紙製品生産量は、2000(同12)年をピークに減少し続けている。とくに印刷用紙の減少が著しい。生産拠点の海外移転も進み、飯田さんには危機感が募った。

「売り上げが減少し、このままではジリ貧になってしまう。将来どのような会社になりたいのか、明確な目標を持って進んでいかなければならない」

経営理念を見直し、新規事業を構築

そこで、経営理念やミッションを策定し、経営戦略を見直した。新たに定めた基本方針は「ラブラドール・ハート・カンパニー」。社員からも意見を聞き、自身の思いを込めてたどり着いた言葉だ。

「ちょうどラブラドールレトリーバーの子犬を飼い始めたところで、その犬種が障がい者補助犬として活躍していると知りました。強くて折れない、というよりは柔軟な心で、他人や社会に対して思いやりを持ちたい。幸福とは自分本位ではなく他人と共有できてこそ。そんな利他の精神をもって事業を進めたい思いを象徴するにふさわしいと考えました」

営業のあり方も変わった。取引先では、どんな困りごとがあるのか。自社でお役に立てることはないか。お客様の立場から、新事業を模索するなかで浮かび上がったのが、PS灰だ。

製紙工程では、産業廃棄物であるペーパースラッジが必ず大量に排出される。減容化するため焼却し、残るのがPS灰だ。多くは埋立処理されていたが、用地不足に加え、環境保護の観点からも処理が難しくなっていた。

取材・文 米田真理子
写真提供 飯田工業薬品株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 5月号「特集1」から抜粋したものです。

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