『理念と経営』WEB記事
編集長が選ぶ「経営に役立つ今週の一冊」
第53回/『SDGsビジネスモデル図鑑――社会課題はビジネスチャンス』

SDGsをビジネスの観点から捉える
『理念と経営』には現在、「スタートアップ物語」という連載があります。また、それ以前から、有望なスタートアップ企業を折々に取材して記事化してきました。
登場するスタートアップの多くは、ビジネスを通じて何らかの社会課題解決に取り組んでいる企業です。言い換えれば、ただ単に「儲かればいい」という姿勢のスタートアップは、小誌では取り上げないのです。
つい先日(3月末)刊行された本書のことを知り、「『理念と経営』の編集方針と響き合う内容だ」と感銘を受けました。また、小誌が取材すべきスタートアップを探すためにも役立つと思い、さっそく一読したしだいです。
著者の深井宣光氏は、SDGs/社会課題解決専門ビジネスメディア『SDGsジャーナル』を運営する一般社団法人「SDGs支援機構」の事務局長です。
その立場から、「SDGs」(「Sustainable Development Goals」=持続可能な開発目標)を巡る社会課題の解決に取り組む起業家・企業・自治体・NPO・国際機関・社会活動家などの取材・調査・研究を続けてきました。
事例数は、本書執筆時点ですでに916事例に及ぶといいます。
そのように、SDGsの最前線を知り尽くした著者が、ビジネスの観点からSDGsを捉えたのが本書なのです。
当連載でこれまでに取り上げてきた本の中では、『武器としてのカーボンニュートラル経営』(夫馬賢治著)や、『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(田口一成著)の類書と言えるでしょう。
SDGs市場は巨大なブルーオーシャン
SDGsは、いうまでもなく、2030年までに世界が達成すべき目標として2015年に国連で採択され、世界中の国々が一斉にそこを目指しているものです。17の目標と169のターゲットから成ります。
環境問題など、人類の存続すら危うくする地球的問題群解決のために定められたものであり、それを「ビジネスの観点から捉える」というと、反発を覚える向きもあるかもしれません。
じっさい、SDGs関連の社会課題解決に取り組む人々の中には、それを通じてお金を儲けることに、ある種の「うしろめたさ」を感じる人が少なくないようです。
著者は、そうした傾向を踏まえて次のように書いています。
《「社会課題解決市場」はビジネスの可能性に溢れています。そして、社会課題の解決だからといって、ビジネスで成功してお金を稼ぎたいという欲求も捨てる必要は一切ありません。
なぜなら、誰もが持っている自然な欲求かつ、人を突き動かすほどの強い欲求であり、あなたやステークホルダーの経済的な成功と社会の課題解決の成功は、社会課題解決市場では表裏一体だからです》
私もまったく同感です。営利企業として取り組む以上、SDGs関連ビジネスでも利益を上げなければなりません。
また、利益を上げることがさまざまな社会課題解決に結びつくのであれば、まさにWin-Winであり、むしろビジネスのあり方として理想的だと思います。
そして、ビジネス的観点から捉えた場合、SDGs関連市場――著者はそれを「社会課題解決市場」と呼びます――は、巨大なブルーオーシャンと言えます。
なぜそう言えるのか? 全3章から成る本書の第1章《熱狂的な需要が溢れる「社会課題解決市場」》では、その理由が詳しく解説されています。
何しろ、SDGsには世界の国々が共通目標として挑んでいるのですから、そこには《世界規模の熱烈な注目》があります。マスメディアにも取り上げられやすく、資金調達もしやすく、国を挙げて支援する仕組みも整備されています。
また、2030年という至近未来がゴールとなり、《今すぐ課題解決を求められるほどの「需要」と「欲求」が世界規模で社会に溢れている》状態です。
にもかかわらず、《社会課題を「市場」として認識できている人があまりにも少ないため、あり得ない「特等席」が誰にも気づかれることなく、「空席」状態でまだ残って》います。
巨大な需要があり、世界を挙げての応援がある。にもかかわらず、供給はまだまったく足りていない――それが、「社会課題解決市場」というブルーオーシャンなのです。
21の優良スタートアップを紹介
とはいえ、「SDGs関連のスタートアップなら成功しやすい」というほど、経営の世界は甘くありません。社会課題をビジネスとして成立させるアイデアと仕組み――優れたビジネスモデルが不可欠なのです。
本書はまさに、その点を深掘りした一冊といえます。
メインとなるのは、いちばん多くの紙数が割かれている第2章《社会課題をビジネスで解決するSDGsビジネスモデル事例21》です。
『SDGsビジネスモデル図鑑』という書名に対応した章であり、社会課題をビジネスで解決することで急成長している21のスタートアップ企業が紹介されています。
とくに、それらの企業がどのようなビジネスモデルを構築しているのかが、図解も含めてわかりやすく解説されます。
ちなみに、21のスタートアップの中には、『理念と経営』にすでに登場した企業もあります。コークッキング(2018年12月号)やDG TAKANO(2020年5月号)、ユニファ(2018年12月号)などです。また、今後登場するスタートアップもあるでしょう。
中小企業の新規事業にも活かせる
最後の第3章《あなたが「社会課題解決型」になるために》では、SDGsビジネスモデルで成功するためのキーポイントが挙げられています。
そして、「3つの柱」に腑分けされたそれらのキーポイントが、取り上げた21のスタートアップではどのように実現されているかが、解説されていきます。
具体的事例に即した解説であるため、わかりやすく、参考にしやすい内容になっています。
本書のメインターゲットは、これから起業を目指す人たちでしょう。しかし、すでに中小企業を経営している人が読んでも、学びの多い一冊です。
たとえば、既存事業をSDGsに即した形にシフトするとき、あるいは、自社の強みを活かしたSDGs関連の新事業にチャレンジしようとするとき、本書の内容は有益なヒントに満ちているはずです。
深井宣光著/KADOKAWA/2023年3月刊
文/前原政之
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