『理念と経営』WEB記事

タビオの戦略

タビオ株式会社 代表取締役社長 越智勝寛 氏

「戦わずして勝つ」。企業規模で劣る中小企業にとっての理想の“戦い方”である。他社がやらないこと、やれないことに価値を見いだせば、独自のポジションを築くことができる――。国内だけでなく、世界でも高く評価されている靴下専門ブランド「タビオ」の戦略は、そのことを教えてくれる。

「履きやすさ」
「耐久性」の徹底追究

―早いもので、創業者の会長が急逝されて1年になります。バトンは2008(平成20)年に受け継がれていますが、越智社長のなかで何か大きく変わったことはありますか?

越智 変化したというよりも、自分のアイデア、やり方で会長の夢を実現していかなければいけないという気持ちが以前よりも強くなりました。

―会長の夢は「世界一の靴下総合企業になる」ということでしたね。

越智 そうです。でも、そうなるのは当然として、そのうえで僕は靴下に関して世界の品質基準になるような会社になりたいと思っています。

―その品質で求められるものは?

越智 やっぱり履きやすさです。すっと履けて優しくフィットする。そして、耐久性です。履いているうちにずれてきたり、踵の部分が余ったりするような靴下は履きたくないですよね。うちの靴下はそういうことはありませんし、普通に履いていて2、3年は持ちます。一度履いていただくと、リピーターになっていただけます。

―それは会長のこだわりですね。

越智 はい。下手なものをつくったら会長にどやされました。会長はいわば“品質の門番”でした。

―ものづくりは会長、ご自分は販売担当だとも言われていましたね。

越智 あえて、そう言っていたんです。会長は完全にプロダクトアウトなんです。会長が「売れ」というものが売れるとはかぎりません。「売れるものを売れるだけつくる」という理想の下でやっていましたけど、これを上手くまわすために僕たち現場がどれだけリサーチをし、売れそうな商品はあらかじめ積んで勝負をかけてきたか、おそらく会長は知らなかったと思います。だけど、そういう理想を会長が掲げてくれていたからこそ、それに近づける努力をしてこられたと思っています。

経済性ばかり追わない 安売り競争をしない

― タビオの靴下は日本製が中心ですね。そのこだわりの理由は?

越智 こだわっているのではなく、タビオが求めるクオリティーのものをつくれるのが日本の工場しかないということです。本当に日本の工場は素晴らしいものをつくっています。
一時期、海外のほうが人件費が安いということで多くの企業が工場を海外に移転させました。腕が悪いから安いのは当たり前で、そうした量産品がいまもあふれています。

― 日本製に比べると粗悪かもしれませんが、値段は安価ですよね。

越智 そうなんです。単に金額だけを見て海外にシフトしていった会社には、僕は感心しません。「経済産業省」があることでもわかるように「経済」と「産業」は一緒のはずなのに、ここ20年は国を挙げて経済ばかりを追いかけました。
その結果、滅びた日本の産業はいっぱいあります。だからこそ僕は日本の靴下産業は永続させたいんです。これは会長も同じ思いでした。



― 日本は何が違うのでしょう?

越智 僕は日本独自のものづくりの感覚ってあると思うんです。たとえば、うちの会社の事例でいくと、あるパートの方が出荷中にほつれを見つけたことがありました。すると「大変や。品番何々にほつれがあるからラインを止めて検品せなあかん」という話になるんです。で、ラインを止めてみんなで検品するんです。こんな感じのことが普通に起きるわけです。

―それは外国の工場では……

越智 起き得ません。1人が全員のためみたいな感じで働けるのは、日本だけだと思います。そういうことでは、日本人そのものが匠の気質なのだと、僕は思うんです。

―でもいま、何か日本のものづくりは勢いをなくしている感じがします。

越智 経済ばかりに目を向けているからですよ。靴下業だけ見ても、普通にやっているだけで世界に通用する品質のものをつくれるんです。なのに、変に生産の効率を上げようと、どこかの国の真似をしたり、自動化に走りすぎたりして、結局苦しんでいるように見えます。外に答えを求めないで、もっと日本のものづくりに自信を持ってほしいと思います。

海外展開では現地のニーズ最優先

―タビオは、ロンドンやパリにも進出されていますね。

越智 はい。出店してロンドンは21年、パリは14年になります。
これは売り上げを上げるためではなく、靴下の発祥の地であるヨーロッパでタビオの靴下は通用するかどうかを試そうと思って出たんですが、品質はなんの問題もなく通用しました。

取材・文 鳥飼新市
撮影   丸川博司


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 4月号「本物は世界に通ず」から抜粋したものです。

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