『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2023年 4月号
守りながら攻める人中心の組織

株式会社島田電機製作所代表取締役社長 島田正孝 氏
エレベーターのボタンなどを手がける島田電機製作所(東京都八王子市)は創業90年の老舗メーカーだ。現在社長を務める島田さんが入社した当時は、古い体質が残る「町工場」だったが、今ではメディアにも多く取り上げられる「魅せる工場」に進化した。斬新でユニークな施策を連発する狙いは、「人中心の組織づくり」にある。
驚きを提供するにはまず自分が面白がる
島田電機製作所(以下=島田電機)はエレベーターのボタンや表示器といった意匠器具の専門メーカーである。
2020(令和2)年に本社のリニューアルが完成した。2階のオフィスフロアは総務や営業、設計など部署ごとの仕切りをなくしオープンでフラットになった。のれんで仕切られただけの会議室、ハンモックや座卓などが置かれた「発想スペース」などユニークな仕掛けに溢れている。
なかでも圧巻なのが、これまで同社が製作してきたボタンの一部を並べた「1000のボタン」というコーナーだ。“30秒早押しチャレンジ”というゲームができることもあり、会社見学で訪れる子どもたちに人気の会社でもある。
――12 階のエントランスに行く階段の踊り場に「難しいは新しい、だから面白い!」と大きく書かれていました。
島田 うちのスローガン、合言葉です。成長するには、難しいことに挑戦するか、新しいことに挑戦するしかありません。常に挑戦していこうよ、という思いを込めて掲げているんです。
――しかめっ面で挑戦するのではなく、面白がってやっていこうよ、と……
島田 はい。なんでも主体的に前向きに取り組んでほしいと思っています。私は、従業員が働きやすい会社をつくらないといけないと、ずっと思ってきたんです。そうした環境をつくったり、仕掛け、仕組みをつくったりするのが社長の仕事だと思っていまして、同じやるなら、みんなの期待を超えるようなこと、驚くようなものを提供したいという気持ちがあるんです。
――たしかに驚きがあります。
島田 よく「プロ意識」といいますが、これは相手の期待を超えて喜ばせたいという気持ちだと思うんです。会議資料のコピーを取るにも、ただ人数分をコピーするだけではなく、それがどう使われるかを考えて使いやすいようにセットしておくとか。その気持ちがプロ意識なのかなと思っているんです。だから、みんなに楽しんでもらうために、ここには就業時間の後は無料で自由にお酒が飲めるBarコーナーもあるんです。
――そういう発想のもとは何ですか。
島田 街を歩いていたり、飲食店に入ったときに、なにか面白い仕組みや仕掛けがあると、うちでやるならどうなるんだろうなと考えるんです。まず自分が面白がることかもしれませんね。
――オープンスペースにされたのには、どんな思いがあるんでしょう?
島田 オープンにすると、横で働いている人がやっていること、打ち合わせや会議をしているのも見えるし、聞こえるんです。誰が怒られているとかということもわかる。こういうことって、一緒に働いているみんなとコミュニティを共有していく上では、すごく重要だと思うんです。実際、リニューアルしてから、今までになかったような社員の連携ができて新たなものが生みだされたりもしています。
自分が働きたいのはこんな会社じゃない!
創業は1933(昭和8)年。島田さんの祖父、島田有秋氏が、まだ東京にビルが珍しい時代に“これからはエレベーターが必要になる”と事業をスタートさせた。
以来90年、エレベーターのボタンや表示器の専門メーカーとして、オーダーエレベーターの意匠品ではシェア6割を超えるトップ企業となった。
5代目社長に当たる島田さんの入社は93(平成5)年のことだ。同じ年に父が急逝し、3代目を当時の副社長が継ぎ、2000(同12)年に父の弟の清四郎氏が4代目を継いだ。商社マンとして長く海外生活をしてきた叔父と二人三脚で、島田さんは社内改革を始めたという。
オフィスの入口で人々を出迎える「ボタンちゃん」。その横には創業100年目を意味する「2033」の文字(自社製)が光る
取材・文 中之町 新
撮影 鷹野 晃
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 4月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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