『理念と経営』WEB記事

新しいことへの挑戦が社員と会社を成長させる

株式会社ヤマウチ 専務取締役 山内恭輔 氏

ECサイトの躍進と業務効率化ツールの活用で水産加工業界に新風を吹かせている同社。一見DXと縁遠いような業種でありながら、なぜこれほどDXが進んでいるのだろうか。その秘訣は、山内専務自らのリスキリングとそれを社員に浸透させたことにあった。

ECサイトを独学で学び「売れるサイト」を構築

宮城県南三陸町で1949(昭和24)年に鮮魚店として創業した株式会社ヤマウチ。90年代からは店舗販売に加えて、自社工場での水産加工業と、スーパーマーケットをメインとしたBtoBの卸販売も開始。南三陸町で捕れた新鮮な海産物が人気だ。

3代目の山内恭輔専務が、カメラマンとして活躍していた都内からUターンして帰ってきたのは、社長の父から「ECサイトを立ち上げたから、戻って来て運用してくれ」と頼まれたからだ。ECサイトは全くの未経験だったが、興味があったし、いずれは後を継ぐ気持ちもあったので、帰郷を決意。

社長からの要望は、「ECサイトで月300万円売れるようにしてくれ」だった。サイトはすでに外注でできあがっていたが、運用はこれからという状態。

「取り扱っている商品は、とても新鮮で美味しいものばかりだし、カメラマンの経験を活かして美しい写真を掲載すれば、売れるだろうという自信はあったのですが、蓋を開けてみると、月の売り上げはわずか3000円でした。これが現実かと打ちのめされました」

ここで山内専務は、一念発起してECサイトの制作と運営方法を独学で学ぶことを決意。いわば、自らのリスキリングである。専門書を買ってきて、基本から徹底して学び直した。ショッピングカートの選定からバナーの制作、キャッチコピーの作り方。デザインについては専用ソフトを使って一から学び直した。凝り性だったせいもあり、毎日の睡眠時間を2、3時間まで削って、3年ほどかけてすべてを作り直した。

新しくなったサイトは、当初のサイトとは別物だった。写真は、百貨店のカタログのようなきれいなものからシズル感を重視したものに変更。店舗に対する安心感を持ってもらうため、自らの顔写真を入れ自分の半生を綴るなど顔の見えるサイトにした。

「学んだものをすべて注ぎ込んだリニューアルしたECサイトを立ち上げると、そこから急激に売れ始めました。商品さえ良ければ売れるというものではありません。やはり売れるサイトでなければ売れないのです」



ショッピングカートのボタンをお客様が見やすい位置に置くなど、工夫が施されている

「kintone」を社内に浸透させ業務効率化

山内専務自らのリスキリングで飛躍的に売り上げを伸ばしたわけだが、次の課題となったのは、社員のリスキリングだった。

「注文はガンガン入ってきたのですが、そのあまりの忙しさに、年末にもなるとみんな追い詰められてしまいました。なにしろパソコンから離れるとその隙に100件200件もの注文が入っているような状況だったからです」

当時は自社サイトだけではなく、楽天ショップなどのショッピングモールにも出店していた。それぞれで客層も価格帯も、売るための方法も全く違うので、なお一層大変だった。そこで自社サイトとショッピングモールを一括管理できるシステムを導入して効率化を進めようとしたのだが、その矢先に東日本大震災に襲われた。パソコンも顧客データもサーバーも流されて、店舗も工場も失った。

復旧は少しずつ進んだが、地元の水揚げ量は激減しECサイトは再開できず、店舗販売とBtoBだけで仕事を続けた。

3年ほど経過してやっとECサイトを再開。けれども、ECサイト運営のスキルを持っているのは山内専務だけだったため、あらゆる業務が専務に集中し、「ぶっ倒れるくらい仕事をしていました」という状況に陥った。

そこで再び社員のリスキリングを決意。新たに導入したのは、サイボウズのクラウド型業務アプリ開発プラットフォーム「kintone(キントーン)」だった。プログラミング技術がなくても簡単に各企業に適したアプリが作成できるので、山内専務は、案件管理や進捗管理や日報管理などのアプリを作成。これによって、業務効率が飛躍的に改善した。

「それまでは、業務が属人化しすぎていて、非効率なことがたくさんありました。でも、アプリの導入によって、見積もりも売り上げも原価計算も、あらゆる情報を社員が共有できるようになったのです。見積書を送ってくれとお客様からの要望があれば、誰もがすぐに送信できます」

課題は、このアプリの導入に乗り気ではなかった社員たちにどう浸透させていくかだった。

「まずは、お願いしました。はじめに自分がデータを入力し、社員がある程度使えるような状態にしておいて、『とりあえず半年間入力してください。もしダメだったらやめてもいい』と言いながら、“はじめの一歩”を踏み出してもらったのです。そうしてスタートし、やり方がわかってくると、逆に便利になってきて、みんなが積極的に活用するようになりました」



山内専務がkintoneで作成したアプリ。これによって担当者でなくともお客様とのやり取りの進捗を確認でき、誰でも対応することができる

取材・文 長野修
写真提供 株式会社ヤマウチ


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 4月号「特集1」から抜粋したものです。

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