『理念と経営』WEB記事
逆境!その時、経営者は…
2023年 4月号
“改心”が成した大震災からの復活

株式会社ナプロアース 代表取締役社長 池本篤 氏
福島県伊達市に本社を置く同社は、東日本大震災による津波と原発事故で店舗も工場も失った。社員もバラバラになり再起不能と思われたが、震災の 3 年後には最高売り上げ 10 億円を達成。しかも 8 割が新人社員だった。奇跡のV字回復の“軌跡”を辿る。
「業界の風雲児」と呼ばれ好調の最中、震災に襲われる
1996(平成8)年、池本篤社長は29歳の若さでナプロアースを創業した。裸一貫で立ち上げた自動車リサイクル事業であり、後発ゆえの不利を覆すには独自路線を取る必要があった。そのために選んだのが、廃車引き取りに特化したリサイクルであった。
「当時の自動車リサイクル業者は、廃車の使える部品だけを引き取るビジネスをしていました。廃車ごと引き取ると、鉄くずの処理にお金がかかるので、みんな嫌がって引き取らなかったのです」
池本社長はそこに商機を見いだし、「うちは廃車を丸ごと引き取ります」と、ディーラーや中古車販売店にアピールした。その結果、福島県内で1年に出る廃車の大半が同社に集まるようになったという。
当初は利益の薄い商売だったが、2005(同17)年に「自動車リサイクル法」が施行されると、状況が一変。中国やアジア各国に廃車から出る鉄くずを資源として輸出し、儲けが出るようになったのだ。同社は先行者利益で大いに潤った。
「もっとも、うちの一人勝ちだったのはそれから1年くらいでした。他社がどんどん参入してきましたから」
自動車リサイクルがレッドオーシャン化してからも、同社は2007(同19)年にEC事業の「廃車ドットコム」をいち早く立ち上げ、個人からの廃車買い取りも始めるなど、業界をリード。池本社長はマスメディアに「自動車リサイクル業界の風雲児」と書き立てられた。売り上げも、8億円に迫る勢いで伸びていった。
だが、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災で、同社は創業から15年間積み上げてきたすべてを失うことになった。福島県浪江町にあった本社工場は津波に呑まれ、原発事故の避難区域にあったため、閉鎖せざるを得なかったからだ。
『理念と経営』公式YouTubeにてインタビュー動画を公開!
津波で抱いた“後悔”――「再建できたら、社員を大切にしよう」
その日――「3・11」に、池本社長は海沿いの道路を車で走っていたとき、真っ黒い津波に遭遇した。地震でメチャメチャになった店舗(リサイクル部品販売店)に向かう途中であった。
命からがら津波から逃れ、高台に立つと、当の店舗が津波に呑まれているのが見えた。携帯電話は何度かけてもつながらない。スタッフの死を覚悟した。その店の店長は創業時からの古参社員で、池本さんはよく叱ったり怒鳴ったりしていた。
「あんなに叱らなければよかった。もっと褒めてやればよかった。彼とこのまま永遠の別れになったら、ずっとそのことを後悔し続けるだろう」――痛切にそう感じた。幸い、被災して亡くなった社員はいなかった。それでも、津波に際して感じた後悔の念は、現在の池本社長の経営姿勢に強い影響を与えている。
「『もしも会社が再建できたら、今度こそ社員たちを大切にしよう』と、そのとき思ったんです」
じつは震災前から、池本社長は「この会社のあり方を根本から変えなければ」と危機感を覚えていた。
「それまでのうちの会社は、もろ体育会系でスパルタ式だったんです。私自身が前職で抜きん出た営業成績を上げてきたこともあって、『数字がすべて』で、社員を手荒に扱っていました。怒鳴ったりすることもよくありましたね。
それでも、設立時からのメンバーは仲間意識も強かったので、私についてきてくれました。でも、その後に入ってきた若いメンバーの離職率が高くて、みんなすぐに辞めてしまう。『このままでは未来がない』と、改革を考えていた矢先に震災に遭ったのです」
震災と津波、そして原発事故によって、ナプロアースは会社の全機能を失った。避難区域にある工場での再稼働は不可能で、社員たちもほぼ全員が県外に避難していたからだ。
当然、そのまま廃業するという選択肢もあった。
「私から『再建しよう』とは言い出せなかったですね。設立時からのメンバー何人かと話をしたときに、『社長がもう一度会社をやるのなら、ついていきます』と彼らが言ってくれたので、その言葉に背中を押されて再建を決意したのです」
同社が注力するボランティア活動。震災時に助けてもらった経験から「全員は難しいけれど、周りの人から幸せにしよう」と池本社長は思ったという
取材・文・撮影 編集部
写真提供 株式会社ナプロアース
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 4月号「逆境!その時、経営者は…」から抜粋したものです。
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