『理念と経営』WEB記事

求める人材を明確にすれば 打つ手が見えてくる

株式会社井口一世 代表取締役 井口一世 氏

金型で作るしかなかった金属製品を、穴開けや曲げといった板金加工で行う「金型レス生産」をウリに、2001(平成13)年の創業以来、売上140億超の優良企業へと驚異の成長を遂げてきた井口一世。独自路線を貫く“小さな巨人”のこだわりの採用戦略――。

物事を概念化でき、やり抜く力があるか?

新卒採用を本格的に始めたのは2009(平成21)年。その前年に起こったリーマン・ショックの影響で景気が急速に悪化し、採用を手控える企業が続出する状況をみて、私は逆にこれはチャンスだと打って出たのです。読みは見事に当たり、5人の優秀な大学生を迎え入れることに成功しました。以後、新卒採用は継続して行っており、今年の春も約500人の応募者の中から厳しい選考を突破した3人の入社が決まっています。

当社が求めるのは自分の頭で考え、物事を概念化でき、最後までやり抜くことができる人材です。だから学校の成績は見ない、女性でも文系でもかまいません。

ちなみに社員の 7 割弱を女性が占めていますが、毎年採用基準に忠実に選考していたら結果的にそうなっただけの話で、ジェンダー枠があるわけではないのです。

また、機械に関する常識が染みついた工学系の学生よりも、まったく専門知識のない文系出身者のほうが、むしろ当社向きだといえます。世の中に流通している工業製品には必ず当社の技術が使われている、私が目指すのはそんな世界一の製造業です。

それには常に新しいやり方を発見し、イノベーションを起こし続けなければなりません。ところが、下手に機械のことを知っていると、どうしてもその枠の中で正解を見つけようとするので、新しい発想がなかなか出てこない。

その点文系の人間には拠って立つ経験がありませんから、工学を学んだ人は絶対にやらないような機械の使い方を平気でやる。そうすると、当然失敗もしますが、だからこそこれまで誰も考えつかなかった、新たな価値を生むやり方が発見できるのです。

教育の基本は「自分で勉強し自分で試す」

だから、当社では、新入社員にはビジネスマナーは教えても、工作機械の使い方は電源の入れ方くらいしか教えないことにしています。だって、教えたら教えた人のクローンができるだけで、それ以上伸びないじゃないですか。自分で勉強し自分で試す、これが社員教育の基本なのです。もちろん自由にやらせれば、無茶苦茶な使い方をして機械を壊すこともあります。

だからといって、それで怒られるようなことはありません。一般的な工場だと故障のリスクを考慮して、10ある機械のポテンシャルのうち6か7くらいまでしか使わないのが普通です。

ところが、それだといつまで経ってもどこが10か判断がつきません。常識に縛られない人間が11までやって機械が壊れたときにはじめて、その手前に限界があることがわかり、以後その機械を9.9まで使うことができるようになります。つまり、失敗は新しい発見をしたということになるのですから、ほめられはしても叱責の対象にはならないのです。

ただし、壊した機械は自分で直すというのがルールになっています。

誰も教えてくれませんから自分でマニュアルを読んで機械の構造を理解し、必要な部品の調達も自分でやらなければならないので、ある意味怒られるよりも厳しいかもしれません。

ただ、これを経験するとものすごく成長します。かつて、社内の機械を自由奔放に扱ってことごとく破壊した猛者がいましたが、彼女はいまメインシステムの責任者です。

取材・文 山口雅之
撮影   富本真之


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 3月号「特集1」から抜粋したものです。

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