『理念と経営』WEB記事

「チャレンジする企業カルチャー」を 取り戻せ!

株式会社ロッテホールディングス代表取締役社長 玉塚元一  氏 ✕  株式会社シナ・コーポレーション代表取締役 遠藤 功  氏

停滞していた韓国ロッテとの交流を深め、協業によって新たなイノベーションにつなげる―。「ワンロッテ」と名付けた新戦略の陣頭指揮をとる玉塚元一社長が、もう 1 つのミッションとして掲げるのが企業の風土改革である。日本企業が陥りがちな「同質性の罠」を克服し、失われたかつての「挑戦する企業文化」をどのようにして根付かせようとしているのか。

頻繁に韓国に足を運び、見えない壁を取り払ってきた

遠藤 日本に社長と名のつく人はたくさんいるわけですが、その大部分は「マネージャー型の社長」ですね。メンタリティがリーダーというよりマネージャーなんです。
その中にあって玉塚さんは、真のリーダーシップを持った稀有な経営者だと思っています。いまの日本企業に必要なのは、玉塚さんのように力強く会社を引っ張っていく「リーダー型の社長」なのだと思います。

玉塚 ありがとうございます。私は2005(平成17)年に、ファミリーマートの社長を務めた澤田(貴司)さんと一緒に「リヴァンプ」という会社を設立しました。
「リヴァンプ(Revamp)」は「刷新する」という意味ですが、その名の通り、壁に直面している企業に何人かのチームで乗り込んでいって、経営刷新を行う会社です。

私がローソンの社長をやったのも、いまロッテホールディングスの社長をやっているのも、その延長線上なんです。つまり、経営刷新するという役割を担って、社長として招かれている。「玉塚さんの仕事は何ですか?」と聞かれると、私は「 1 人リヴァンプです」と答えるんですよ。リヴァンプという会社が請け負う場合にはチームで行うことを、私は 1 人で乗り込んでやっています。成り行きでたまたまそうなっただけですが……。

遠藤 ロッテホールディングスの社長に就任されたのが21(令和3)年の6月。今年で 3 年目に入るわけですが、ロッテで果たすべきミッションはどのようなものだとお考えですか?

玉塚 大きく言うと 2 つあります。 1 つは、韓国ロッテと日本のロッテのアンバランスを正し、両者のエンゲージメント(深い関わり合いや関係性)を強めて「ワンロッテ」にしていくこと。そしてもう 1 つは、ロッテに「チャレンジする企業カルチャー」を根付かせていくということです。

遠藤  1 つずつ伺いますね。まず、読者のために、韓国ロッテと日本のロッテの歴史を簡単にご説明いただけますか?

玉塚 わかりました。ロッテは1948(昭和23)年に、重光武雄さんが創業されました。ロッテはまずチューインガムで大成功して、その後はチョコレートでも大成功を収めます。私は重光さんのことを、たぐいまれな天才経営者だと思っています。明治や森永等の競合社を向こうに回して、お菓子の世界では新興だったロッテが急成長していったのは、その経営手腕によるものでしょう。

その後、1970年代になって、ロッテは創業者の祖国・韓国に進出します。それから半世紀が経って、韓国ロッテのほうが日本よりはるかに大きくなっています。日本のロッテは祖業のお菓子が中心で売上高3000億円程度ですが、韓国は化学やホテル事業、バイオ医薬品などに手を広げて、売上高は9兆円くらい。韓国の 5 大財閥の 1 つになっているのです。

遠藤 そのアンバランスを正すことで、日本のロッテの成長につなげていくということですね。

玉塚 ええ。この10年、日本のロッテも頑張ってはいるのですが、数字上は成長できていません。
やっぱり企業は成長していないと新しいダイナミズムが生まれないし、新しい投資もできないですからね。韓国とのエンゲージメントを強めることで日本の事業をもう一度全部見直して、成長させることが私のミッションの 1 つ目です。

これまで、韓国と日本のロッテにはあまりコミュニケーションがなかったんです。私は社長になって以来、頻繁に韓国にも行っていて、見えない壁を取り払う仕事を進めてきました。ワンロッテになることは、韓国側にとってもメリットが大きいんですよ。韓国の人口は日本の半数以下で、マーケットとしては小さいですからね。すぐ隣の日本という巨大市場に韓国ロッテの事業シーズを掛け算することで、大きな機会が生まれます。
韓国と日本が「ワンロッテ」になっていくことで、日本の売上高も伸ばしていきたいですね。韓国が9兆円もの売り上げをあげているのですから、 2 倍の人口を持つ日本は、半分とは言わないまでも、韓国の 1 ~ 2 割くらいの商売はしないといけないと思います。

「挑戦を恐れる文化」から「挑戦を応援する文化」へ

遠藤 社長としてのもう 1 つのミッションとして挙げられた、「ロッテに『チャレンジする企業カルチャー』を根付かせていく」というのはどういうことでしょう?

玉塚 これは、 3 年前に創業者の重光武雄さんが 98 歳で亡くなられた(2020年1月19日)ことで、大きく浮かび上がってきた課題です。
重光武雄さんはカリスマ性の強い天才経営者であり、それゆえにワンマンでもありました。創業者があまりにもすごすぎて、しかも長い間トップに立ち続けたがゆえに、下の者たちは創業者のほうばかり見て忖度する企業風土になってしまっていた。

また、菓子事業がメガブランドになって、「現状維持でも、食ってはいける」という状態が長く続いたので、創業期のロッテにあった「チャレンジする企業カルチャー」が、だんだん失われていったんです。そのことが、ここ10年来のロッテが壁に当たっている 1 つの要因だと思います。

遠藤 それは、ロッテだけに限ったことではないと思います。日本経済に「失われた30年」をもたらした要因の 1 つが、企業風土の劣化――大企業の多くがチャレンジ精神を失ったことにあると、私は思うのです。
技術力の低下とか不合理な戦略とか、そういうこともあるけれど、より根本的な問題は、会社全体がファイティングポーズを取っていないことにあるような気がします。経営者がチャレンジを忘れれば、社員たちもチャレンジをしなくなるものです。

玉塚 おっしゃるとおりです。私はロッテに来て、 1 人ひとりの社員と対話も重ねて、「チャレンジする企業カルチャー」の真逆になってしまっている状況に驚きました。「挑戦を恐れる文化」「失敗を許さない文化」になってしまっていた。言われたことだけをやる。部署ごとに小さくまとまって、自分の部署しか見えていない。元気で優秀な若手営業社員に将来の夢を聞いたら、「私は統括支店長になることが夢です」と言われて、「それが悪いとは言わないけれど、若いんだからもっと大きな夢を持ってほしいな」と思いました。

遠藤 昨年、私が上梓した著書『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』(東洋経済新報社)は、まさにそういう問題を扱っている本です。
その中で私は、「チャレンジしない企業文化」を象徴する言葉を挙げました。「No Try No Failure」―「挑戦しなければ、失敗もしない」という英語です。成長が止まってしまった企業は、社員がみんなそういう考えに染まってしまっています。「結局、挑戦した者が損をする。失敗したらそれで終わりだ」というような考え方です。

一方、成長している会社を見ると、まるで反対です。「No Try NoFuture」―「挑戦しなければ、未来はない」とか、「No Try NoFun」―「挑戦しなければ、人生は面白くない」という考え方が、社員みんなに浸透しているのです。 3 つの言葉はいずれも「NTNF」と略せます。後ろ向きな「NTNF」から、前向きな「NTNF」に変えていかないといけない。それが「『チャレンジする企業カルチャー』を根付かせていく」ということなのだと思います。

玉塚 ほんとうにそうですね。

遠藤 ただ、企業カルチャーを変えるというのは、たやすいことではないですね。 1 つには、長年の間に少しずつ育まれてきたものだから、一朝一夕には変わらない。だから、腰を据えてじっくり取り組む必要があるのです。それと、企業カルチャーによい面と悪い面があって、悪い面を変えようとすると、よい面まで消えてしまうことがあります。「角を矯めて牛を殺す」(牛の曲がっている角をまっすぐに直そうとして、かえって牛を死なせてしまう)ことになりかねない。だから、企業カルチャーのよい面を残しつつ悪い面だけを変えるのは、なかなかの難事です。

玉塚 ロッテにも、当然よい企業カルチャーはいろいろあります。たとえば、派閥がないことです。「東大閥」みたいな学閥も、「チューインガム閥」みたいな部門ごとの派閥もない。みんなが創業者のほうを向いていたから、派閥など作る余地がなかったという面もあるでしょうが……。

遠藤 外から見ていると、ロッテは家族的で、あったかくて、みんなに愛されているブランドで……と、すごく居心地がよさそうですね。

玉塚 そうですね。それは社員が総じて素直でピュアであるというよい面にもつながっているし、ぬるま湯的な現状維持志向や、悪い意味での同質性にもつながるでしょう。よい面を強化し、悪い面をなくしていく―企業カルチャーを変えるためには、その両面が必要になるのでしょうね。

多様性のないところにイノベーションは生まれない

遠藤 ロッテに「チャレンジする企業カルチャー」を根付かせるための試みの 1 つが、玉塚社長ご自身が「学長」となった「ロッテ大学」ですね。

玉塚 はい。これは私が社長に就任してすぐに始めたものです。

遠藤 対象は幹部ですか?

玉塚 というよりも、「ネクスト幹部」―これからのロッテを担って立つ幹部候補生たちですね。30代から40代前半くらいの40人程度を選抜しました。毎月、週末の 2 、 3 日を使って、合宿形式で行います。私自身も 2 カ月に 1 回くらいは登壇して話をしています。

構成 本誌編集長 前原政之
撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 3月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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