『理念と経営』WEB記事

社員皆が“自己ベスト”を出せる環境をつくる

大橋運輸株式会社 代表取締役 鍋嶋洋行 氏

愛知県瀬戸市にある社員数約100人の大橋運輸が、「新・ダイバーシティ経営企業100選プライム」に全国の中小企業を代表して選定された。男性中心と思われがちな運輸業界の中にあって女性管理職を積極的に登用。事業の幅を広げながら外国人や障がい者など多様な人材が活躍している。

きっかけは「ES担当者」の募集

鍋嶋洋行さんは1998(平成10)年に31歳の若さで社長に就任した。信用金庫出身で財務状況に通じていた鍋嶋さんは、超過債務の解消や下請け業務に依存したビジネスモデルの転換を図っていく中で、従業員満足度(ES)の向上に着目した。

規制緩和で運輸業が免許制から許可制となり、事業者数が6万社以上と大幅に増大する中、人材採用を経営課題の上位に置く必要があった。そこで、男性中心だった職場環境に女性の視点を取り入れ、それまであまり顧みられて来なかった社員の健康サポートに力を入れるために「ES担当者」の職種で人材を募集することにしたのだ。

しかし、運輸業の中小企業で優秀な女性を採用することは容易ではなかった。鍋嶋さんは子育て中の女性なども応募しやすいように、「週3日、1日4時間、午前でも午後でも勤務可」という募集条件を設定。すると、大手企業での勤務経験のある女性など多くの応募が得られ、人事部での勤務経験を持つ女性を採用できたという。その後、安全管理部門などでも能力重視で女性の採用を推し進め、管理職にも登用。現在につながるダイバーシティ経営の基礎が築かれた。

「現在、女性の管理職が4割程度占めています。当初はトラックドライバーの経験がなく、フルタイム勤務ではない女性が管理職を務めることに反対する声もありましたが、管理職は現場経験に富み、長時間勤務ができればいいというものではありません。事業の付加価値や職場環境を高められることが大切。1日4時間でも十分管理職としての務めを果たせることを証明してくれました」と、鍋嶋さんは語る。

多様な人材の活躍で業容も広がった

従来の男性中心社会の職場環境に変化がもたらされた大橋運輸では、その後も外国人社員や障がい者、性的少数者(LGBTQ)など、国籍、性別、障がいの有無などに囚われない人材採用を行い、多様な人材が活躍できる環境が出来上がっている。

「介護や育児をはじめ、多くの社員がさまざまな条件を抱えて働いています。海外の人や障がいのある人も一緒に働く会社では、そうした人たちの働きやすさを考えることで、社員全員が働きやすい環境が生まれてくるんです」

障がい者雇用では、“できないことではなく、できることに目を向ける”ことの大切さに気づき、社員それぞれの可能性を信じ続けることができるようになったという。

「個々の能力を比較して評価するのではなく、社員皆が〝自己ベスト〟を出せる環境をつくることが経営者として大切なことだと思っています」

多様な人材が働くようになった大橋運輸では、従来の法人向けの運送事業に加えて、個人向けの事業も積極展開している。瀬戸市で高齢化が進んでいることから生前整理・遺品整理の依頼が増えるなか、女性社員のきめ細やかな対応が好評だという。女性社員の影響は、梱包、接客、チームワークにおいてもサービスレベル向上につながっている。

取材・文 宮澤裕司
写真提供 大橋運輸株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 2月号「特集2」から抜粋したものです。

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