『理念と経営』WEB記事

自動車学校の未来を見据え、改革に挑む

ミナミホールディングス株式会社 代表取締役社長 江上喜朗 氏

少子化、若者のクルマ離れに加え、自動運転化の荒波が押し寄せる自動車教習所業界。その中にあって、従来の「自動車教習」の当たり前をことごとく覆し、大胆に改革しているのがミナミホールディングスだ。新たな価値を創造しながら道なき道を切り開いている江上喜朗社長に、どのようにして既成概念の壁を乗り越えたのか、お聞きした。

直ちに潰れるわけではないが……

江上社長の祖父が1956(昭和31)年に創業した南福岡自動車学校がミナミホールディングスの中核事業である。90年代には九州でダントツの入校者数を誇り、その存在は「ミナミ」の通称で広く知られている。

江上社長は大学卒業後、リクルートのグループ企業に 4 年あまり勤務したのち仲間とネットベンチャーを立ち上げたが、過労でダウンしたのを機に、2010(平成22)年、父が継承していた自動車学校に戻ってきた。

江上社長が入社したとき、業績はすでに20年間、右肩下がりが続いていた。少子化と若者のクルマ離れにより入校者数が減少し続けていたのだ。

社員は生気のない表情をしており、生徒さんからも明るさが感じられない。暗い空気が漂っていた。直ちに潰れるわけではないが、好転するとも思えない状況だった。

江上社長は専務の立場でさまざまな施策を講じたが、結果はどれも「空振り」。1年が経過した時点で「小手先の改善施策でどうにかなるものではない。会社をまるごと変えなければ」という結論に至った。そこで、社長である父に直談判して全権を委譲してもらい、30歳で3代目社長に就任、改革に乗り出した。

「かめライダー」に変身して決意を表明

改革の第一歩は2012(同23)年11月に開催した経営計画発表会だった。

社員に経営計画を伝えるのは創業来初めてのこと。ホテルに用意した会場で、江上社長は全社員に向けて「明日から会社は変わります!」と宣言した。そして「明るく楽しく学ぶことができて、生徒さんが笑顔で帰っていくような教習所にします」と方針を打ち出した。

そのときの江上社長はスーツではなく、緑色のタイツに身をつつみ、亀の顔がついたヘルメットをかぶっていた。名づけて「かめライダー」。交通安全のヒーローとして考案したキャラクターに扮して登場し、社員の度肝を抜いたのだ。

「会社を抜本的に変えるには、強力なメッセージが必要だと思いました。そこで、まずビジュアルでみんなをあっと言わせるようにしたのです」

率先して会社を変身させる意思を自らの“変身”で示し、「ぼくは明日から毎日、この格好で出社します」と明言したのだった。

改革にあたり江上社長は、「感性あふれる“ひと”を創る」という経営理念を定めた。運転免許の取得費用を用意してくれた両親に感謝するといった感性も育てる学校にしようとの思いを込めたものだ。そして「明るく、楽しく」教える。これを改革の軸にした。



   交通安全ヒーロー「かめライダー」

人間教育も含めて楽しく学べる場にする

自動車学校に通う人の多くは、「安い、近い、(期間が)短い」の3要素で学校を選ぶ。楽しさは求めない。指導する側も「明るく、楽しく」とは意識せず、十年一日のごとく同じ教習を一方的に繰り返す。指導員やスタッフが教習生と心を通わせることはない。それが業界の慣習であり常識となっていた。

人間教育もしようという江上社長の改革方針は業界の常識に反するものだった。

取材・文 中山秀樹
写真提供 ミナミホールディングス株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 2月号「企業事例研究2」から抜粋したものです。

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