『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2023年 2月号
他社が真似できない、 “オドロキ”を作ろう!

フジ産業株式会社 代表取締役社長 松本雄一郎 氏
物置メーカー最大手の販売代理店として、39年連続で販売施工量日本一を誇るフジ産業株式会社が、新たに自社ブランドを立ち上げた。業界特有の商習慣から抜け出すために、物置の可能性を追究してきた2代目の松本雄一郎社長は、「オドロキがないものは作らない」と言い切る。そのこだわりの戦略とは―。
目指したのは「いままでにない物置」
JR常磐線ひたち野うしく駅(茨城県)からほど近い、フジ産業「TSUKUBA EXHIBITION HALL」。さんかく屋根が特長的な自社ブランドの「マツモト物置」を中心にした物置やエクステリアの展示場だ。訪れてまず驚くのは、ベンチに座る松本雄一郎社長の等身大フィギュアである。
「面白いでしょう。みなさん横に座って記念撮影をしていかれるんですよ」と、松本さんは笑う。
ほかにも、マツモト物置Tシャツやパーカー、ファンクラブ・バッチのガチャガチャなど、趣向を凝らしたグッズが売られている。
それらのどこかに松本さんの似顔絵が出てくるのだ。自分をキャラクター化した、販売よりもファンを作るための戦略である。
―ユニークな展示場ですね。
松本 はい。お客様に私たちの物置への想いやマツモト物置のブランドイメージを感じてもらえる場所にしたいと思ったんです。
―なんと言っても等身大のフィギュアは度肝を抜きますね。
松本 そうでしょう(笑)。私は、自分は日本で一番物置のことを考えている、と自称しているんです。それほど物置が好きなんです。日本の物置は世界一の品質だと思っています。なぜ世界一なのか……
―ぜひ、聞かせてください。
松本 これは日本の気候風土とも関係するのですが、日本のスチール物置は床があります。しかも、湿気が上がってこないように地面にブロックを置いて、その上に建てる。そうすることで水平もとれます。こういう物置は海外にはあまりありません。ほとんどが直置きで、風や雨も平気で入ってくる。日本の物置ではありえません。
扉も海外のものはドアタイプですが、日本の物置は引き戸です。狭い敷地でも開け閉めがしやすいように考えられたわけです。そのうえ頑丈です。さらに組み立て式だからこそ、狭い設置場所でも部材を運べて建てられるんです。
―なるほど、日本の都市部の住宅事情に適しているわけですね。
松本 日本の物置は、そういう条件の中で独自に進化をしてきたんです。私は、丈夫さや使いやすさだけではなく、デザインの良さも大切だと思っています。それに加えて、その物置が庭にあることで家族の楽しい思い出づくりもお手伝いできる。そんな物置を作っていきたいと思っているんです。
―それがマツモト物置のコンセプトですか?
松本 そうなんです。目指すのは、いままでにない物置です。
自社ブランドを立ち上げたワケ
スチール物置が誕生したのは、1965(昭和40)年のことだった。東京の目白製作所が作った「セイリーハウス」である。以降、ヨド物置、タクボ物置など、数多くの物置メーカーが生まれ、75(同50)年2月に稲葉製作所がイナバ物置を世に出した。
同じ年の5月。目白製作所に勤めていた松本勝巳さんが自宅の6畳間を事務所に、物置メーカーの代理店としてフジ産業を創業する。さらに、その年の10月、長男の雄一郎さんが誕生している。この巡り合わせから、松本さんは自分を〝物置の子〟と言う。
―創業4年目でフジ産業はイナバ物置の販売代理店一位になり、以来一位を続けてきたそうですね。
松本 39年間ずっとです。「100人乗っても大丈夫!」という有名なイナバ物置のCMがあるでしょう。
あの一番前、稲葉(庄市)社長の横に父がずっと座っていたんです。
―トップを続ける秘訣は?
松本 私たち代理店は各地のホームセンターに物置を展示させてもらって、それが売れたら組み立てに行くというのが仕事の流れです。多くの代理店は商品だけを右から左に流して、組み立ては協力会社の職人さんに発注するんですけど、うちは全部自社工事部でやっています。自社配送、自社組立工事、です。
―最後まで責任を持つ、と。
松本 そうです。物置は、1000件あれば1000通りの現場に合わせて組立工事をすることで、はじめてその品質と耐久性が活かされるんです。ですから、製造するメーカーが50%で施工会社が
50%、合わせて100%になる商品です。それを丁寧に続けてきたんです。
しかも年中無休です。父は事業所を出すと土地を買って倉庫を建てるんです。そこに各メーカーの在庫を置く。例えば土日に何か部材が必要になったとしても、他社はメーカーの営業日を待たないと部材が届かないですが、うちはすぐに対応できるんです。
―なるほど……。
松本 こういうところがホームセンターから評価いただけたのだと思います。事業所も関東・東海を中心に18カ所ありますが、そうした実績が認められて進出できたと思っています。
また、私たちはお客様の所に伺って仕事をします。「会社の評価は現場にある」という考えから、社員たちの服装や礼儀、言葉遣い、お客様と接する心遣いなど、父は厳しく言っていました。
―それは大切なことですね。ところで、入社は何年ですか?
松本 2001(平成13)年です。
小さい頃から家業を継ぐのは当たり前だと思っていて、大学を出て2年間大手住宅メーカーで働いた後に入社しました。
―14(同26)年にマツモト物置を発売されます。なぜ自社製品を作られたのですか。
松本 一つは〝悔しさ〟ですね。この業界は正しいことをやる人間ほど損をするわけです。代理店同士の価格競争もありますし、ホームセンターも値引きを要求してくる。それに対応できなければ他社に替えられます。
組立工事代もメーカーが決めているのですが、ホームセンターはできるだけ安くしたい。半額にすると広告を出した店もあって、「それはできない」と抗議すると取引停止になったこともありました。
―安売りの皺寄せが代理店や職人さんにくるわけですね。
松本 物置は値引きして売るのが当然という考えがあって、30%、35%値引きが普通なんです。しかし、ホームセンターは利益を出したいから値引きした分、私たちに負担を強いるんです。そういうことをずっと経験してきて、薄利多売の構造に嫌気がさしたんです。
取材・文 中之町新
写真提供 フジ産業株式会社
本記事は、月刊『理念と経営』2023年 2月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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