『理念と経営』WEB記事

「理念」と「仕組み化」の 両輪を回せ!

サクラパックス株式会社 代表取締役社長 橋本 淳 氏

このままでは潰れてしまう―。旧態依然とした会社に強烈な危機感を持った橋本淳社長は、後継するや否や経営再建を推し進め、いまや売り上げは100億の大台間近に、利益は就任時の4倍を叩き出す、北陸屈指の段ボールメーカーに牽引した。理念に軸足を置いた橋本社長の社内改革、通称「理念ドリブン」の全容と、その歩みを追った。

「自社本位」から「顧客本位」の会社へ

富山市に本社を置き、北陸三県・新潟を主な商圏とするサクラパックス。段ボールをはじめ商品パッケージの提案・製造なども手掛けるトータルパッケージメーカーである。創業は1947(昭和22)年。現社長の橋本淳さんは3代目にあたる。大学を卒業し、アメリカに留学しているとき、創業50周年を機に2代目の父・敏宏さん(現会長)に呼び戻され入社した。97(平成9)年のことである。

2008(同20)年に社長に就任。数年は日本青年会議所(JC)で活動し、12(同24)年に本格的に会社の舵取りをするようになった。まず理念を作り直し、理念を軸に会社を大きく変えたのだ。理念を真ん中に置いた経営を橋本さんは「理念ドリブン」と呼ぶ。

―本格的に会社の経営を担うようになったとき、将来への絶望感に襲われたそうですね。

橋本 はい。このままでは会社は潰れると思いました。

― 赤字でも、債務超過があるわけでもなく、事業は順調だったと聞いていますが……。

橋本 段ボールは比較的恵まれた業界でした。それだけに、その環境に安住していたんです。父がワンマンで会社を切り盛りし、役員は父の顔色を窺っているだけでしたし、社員たちも言われた通りに真面目で従順に働いている。そういう会社だったんです。
何につけても曖昧で、たとえば段ボールの原価すらハッキリわからず、どんぶり勘定で値段をつけている感じでした。

―なるほど……。

橋本 経済環境は厳しくなる一方で、これからは淘汰の時代が始まると言われているときに、このままでは闘えないと思いました。それで片っ端から経営の本を読み、経営セミナーがあると聞くと出かけて行きました。その中で会社が進むべき方向を明確にすることが、なにより大切だと思ったんです。

―まさに理念ですね。

橋本 はい。理念を新しく作って、それを軸に会社をまとめていくしかないと考えました。何のために自分は働いているのか。それが明確でなければ働く意味も喜びも感じられません。私は、理念で会社を一つにしたいと思ったんです。
頭に浮かんだのはJC時代の東日本大震災の支援での経験でした。当時、私は防災・減災担当の副会頭をしていました。福島原発から10キロほど離れた被災地で炊き出しをした帰りのことです。大変な思いをされた被災者のみなさんが、頭を下げて見送ってくださったのです。それは米粒ほどに小さくなるまで続きました。電流が走ったような衝撃が走りました。

―お気持ちはよくわかります。

橋本 人生で初めての感覚でした。そのとき、私は「誰かの笑顔のために生きていこう。一人でも多くの人を笑顔にする。そのために私の人生はある」と確信したのです。このときの思いこそ会社の理念の核とすべきものではないか。そう思いました。私が継いだときの会社は、自分の売りたい段ボール、売れる段ボールを売ればいいという、〝自分発〟の会社だったからです。自社本位から顧客本位の会社に変えたいと思ったのです。

100年後、どんな会社であるべきか?

まず役員層の世代交代を見据え、中堅幹部から15名を選び講師を招いて勉強会を始めた。1回目の後、講師から「根本的に学びができていない。短期間で育てるのは無理だ」と言われショックを受けたという。先代が人材育成をしてこなかった結果だった。
そこで、外部からプロ人材を採用することにした。彼らが刺激を与えてくれることを期待したのだ。
狙い通り生産技術や品質管理が改善されていき、社内は活性化した。橋本さんは、1人10時間以上の面談をしたという。その上で自分が考える会社のあり方に共感してくれた人材だけを採用した。それが成功の理由だと話す。

― 理念は、どういうふうに作っていかれたのですか?

橋本 みんなで理念を作ろうと思いました。課長クラスの幹部50名を集めて2泊3日の理念策定合宿をしました。5名ずつの小グループに分け、毎日メンバーを変えて議論したのです。テーマは「100年後の当社はどうあるべきか」です。

―自社の将来像から理念に落し込んでいこうということですね。

橋本 そうです。実にいい議論ができました。実質、0泊3日 。みんな徹夜で議論したのです。それぞれのグループの議論の結果を発表してもらい、それを私が取りまとめて、「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ。」という理念が生まれました。

―多くの人を笑顔にしたいという思いが込められていますね。

橋本 折にふれて私の思いを話してきたので、みんなの中に浸透していたんだと嬉しかったですよ。

― 新しい理念の共有は、どうしていかれたのですか?

橋本 毎年4月に開く経営方針発表会や毎週月曜日の幹部との全体会議など、あらゆる機会に理念について話をしました。だけど、一番はテレビCMです。

―どういうことでしょう?

橋本 北陸三県・新潟で放映するCMなのですが、登場する人も動物も段ボールでできているアニメです。CMのメッセージは「笑顔をつなぐ」です。実はこれ、社員のために作ったんです。家で家族と一緒にテレビを観ているときに、このCMが流れる。子どもが「これお父さんの会社でしょ?」と聞く、「そうだよ」と。そこから、社員が会社の話や理念の話をする。そんな機会を作りたい。いわばインナー・ブランディングのためにCMを流しているんです。

―よくわかりました。

橋本 それと創立70周年(17年)のときに、理念に基づく経営方針と行動方針をわかりやすく書いた『サクライズムブック』という冊子を作って社員に配りました。新書版で250ページ。社員はいつも携帯して、ミーティングでも冒頭の5分は必ず任意1項目についてのそれぞれの思いを語るようにしています。これも理念の肚落ちには大きかったと思っています。

戦略経営に欠かせない「仕組み化」の意義

― 一人ひとりが自分で考え動く会社にしたかったそうですね。―日々の掃除ですか?

橋本 その通りです。顧客本位の会社にすること、自発的に考え行動する会社にすることの2つが組織改革の柱でした。なんとか人を育てたいと思って、取り組んだのが環境整備、清掃です。

―日々の掃除ですか?

橋本 はい。清掃は、考える力をつけるには最もふさわしい活動だと思います。

取材・文 中之町新
撮影   丸川博司


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 1月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

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