『理念と経営』WEB記事

既成概念を覆す 「デニムスーツ」に懸ける思い

株式会社ナッシュ 代表取締役 松岡 浩文 氏

デニム×スーツという、ありそうでなかった掛け合わせでオーダーメードのスーツブランド「inBlue」を展開するナッシュ。事業を引き継いだ2代目は、この画期的な商品の販路をどう切り拓いているのだろう。

ナッシュは、岡山県倉敷市でデニム生地の企画・販売を手がける企業だ。岡山県は高品質の「岡山デニム」でジーンズ市場を根底から支えており、デニムは大切な地場産業である。ただ、カジュアルな素材と認識されるゆえ、スーツに代表されるフォーマルファッションとは相性が悪いとされてきた。しかし、「inBlue」のスーツに腕を通すと、その滑らかな着心地に皆、驚く。

「デニム素材のスーツがありそうでなかった理由は『デニムはカジュアル、スーツはフォーマル』という既成概念から脱せられなかったから。それでも、他社がやらない事業に挑戦することに価値を見いだし、弊社独自の魅力的な商材をつくりたかったんです」

親しみやすい笑顔でそう語るのは2019(令和元)年から2代目社長となった松岡浩文さん。大手造船会社勤務時代に出会った妻の家業を継ぎ、07(平成19)年に先代が始めたデニムスーツという商材を時代に合わせてアップデートさせている。

「主流の逆」に挑む

通常のデニムは太い糸で織られ、硬い質感が特徴で、そのままではスーツ素材として確かに不都合。そこで「inBlue」では高級綿の代名詞、スーピマコットンという細い滑らかな糸を使い、丁寧な縫製で体の動きに沿うスーツを作り上げた。素材、工賃共にコストがかかるため、普通のデニム生地と比較すれば4~5倍のコスト高になる。そのうえ、国産のオーダーメードである。当然、高級品となり、14万円台~という価格帯になるため、まずは可処分所得も、物を見る感度も高い人々に訴求するブランディングを目指した。

「デニムは大量生産のビジネスが主流ですが、弊社のスケールでできる挑戦は主流の逆。倉敷美観地区内に展開している1店舗に加え、今後はEC(電子商取引)も販路の主軸に育てたい。私もそうですが、40~50代以下の若い世代は物を買う前にホームページで情報を読み込む傾向があります。ブランドのメッセージや商品の詳細をストーリー仕立てでしっかり伝えられたら、納得して高額品でも購入してくださるんです。とはいえ、スーツは服という商材の中でECに弱いジャンルですから、オンラインで丁寧にヒアリングし、必ずご満足いただける一着をお届けするよう、店舗同様に最高の接客を目指し、『温かいEC』を目指しています」

東京などで開催するオーダー会は、フェース・トゥ・フェースで顧客のニーズを捉える機会としている。また、もともと炭鉱労働者の作業着だったデニムは色落ちや折りジワなど、経年変化を楽しめる素材だが……。

「経年変化はデニム生地の魅力ですが、スーツの場合は退色を避けたい。そこで通常やらない縦糸の中までしっかり染め上げる工程を踏み、極力、退色しない生地に仕立てています。これ、業界ではかなり常識外れなんですよ。とはいえ、多少の色落ちは避けられません。白シャツを合わせると色移りする可能性がありますと、きちんとお伝えし、一緒にデニムシャツをおすすめします」

情報を開示したうえでプラスワンの購入を促し、客単価を上げるのも重要だ。

一勝九敗を目指す

コロナ禍のリモートワークによってスーツ市場が冷え込んでいる、というニュースが出回ったが、実はオーダースーツ市場は逆に上昇傾向にある。

「高額なオーダースーツを求める顧客は大切なプレゼンやパーティーで一味違ったスーツを着たい、と特別な一着を探していらっしゃいます。弊社の顧客は海外の高級ブランドスーツを着ていたような方々ですね」

これまでは倉敷の“お土産”としての購入も多かったが、岡山デニムの個性と品質、抜群の着心地で今後はグローバルな販売を狙っていく。ECを主軸事業に成長させることで世界を見据えることができるからだ。

取材・文 中沢明子
写真提供 株式会社ナッシュ


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 1月号「特集2」から抜粋したものです。

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