『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2022年12月号
本気で変えたければ、 経営者自ら アクションを起こせ

株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志 氏
「第1回日本DX大賞」を受賞した株式会社グッデイ(福岡市博多区)。今や国内有数のDX(デジタルトランスフォーメーション)企業として広く知られる同社だが、かつては「社内メールの禁止」「ウェブサイトは不要」「数字は見るな、勘が鈍る」……など、社内にはデジタル不要論が覆っていたという。いったい、そこからどのようにして「データドリブン経営」を軌道に乗せたのか――。
企業理念への回帰が転換点になった
九州北部を中心に64店舗を展開するホームセンターのグッデイ。年間2000回にも及ぶ、さまざまなDIY(「Do It Yourself」の略)のワークショップを開き顧客からは「学べるホームセンター」として知られている。その一方で、同社は顧客の購買データを経営に活かす「データドリブン経営」でDXを成功させた企業でもある。このデータドリブン経営をクールヘッドとすれば、ワークショップを通して顧客との接点を大事にするウォームハートも疎かにしない、実にバランスのとれた企業だといえる。
こうした企業文化をつくったのが2016(平成28)年に社長に就いた柳瀬隆志さんだ。大学卒業後、大手商社を経て、08(同20)年に家業に戻った3代目である。
― 入社当初、すごく驚かれたことがあったそうですね。
柳瀬 そうなんです。最初、びっくりしたのがパートさんや社員たちが「あの客が……」と話していることでした。商売はお客様からお金をいただいて成り立っているわけですから、敬意を持たなければいけない。
当初は、ずっと「『お客様』とちゃんと言いましょう」と、顧客視点の大切さを訴える話ばかりしていました。
―社内の様子はどうでした?
柳瀬 仕事を作業と捉えて、ルーティンワークのように働いている人もいましたし、変化を本能的に嫌がるというのか、今までと違うことをやるのが不安だという心理が強くあったように思います。当時は「自分の売り場は自分がつくる」というスローガンがあって、それに共感して入社した人が多かったんです。
いつの間にか自己満足に陥り、お客様視点を失わせていたのかもしれません。
―なるほど……。
柳瀬 ホームセンターというのは一個一個が小さい商品の売り上げの集まりで、当社でも10万アイテムの商品があります。いわゆるロングテールのビジネスです。店舗を増やせば収益が上がるという時代が長く続いていたのですが、私が入社する前くらいから飽和状態になって、4兆円ほどの市場を業界各社が食い合うようになってきていました。
その中でどうすればグッデイの特徴を打ち出せるようになるのか、どう会社を変えていけばいいのか悩みました。
―そこで理念に立ち返られたと聞いています。
柳瀬 はい。「家族でつくるいい一日」というのですが、これが社名であるグッデイ(GOODAY)の由来にもなっているんです。すごく現代的なテーマです。父は、お客様の生活をDIYで豊かにしたいという思いがあったと言うんです。これだ! と思いました。
まだDIYという言葉があまり知られていなかったので、DIYという言葉を使わずに手づくりの楽しさを伝えるテレビCMをつくりました。キャッチフレーズは「グッデイならできる」です。これが福岡広告協会大賞(2010年度)を取ったりして、皆さんに認知してもらえるようになりました。
―そこが一つの転換点ですか?
柳瀬 そうです。それまでは職人向けというイメージが強くて客層も50代以上が中心だったのですが、CMに合わせてDIY初心者のファミリー層を取り込むように品揃えも変えました。するとグッと客層が若くなったのです。
「デジタル暗黒期」に光が差した瞬間とは
―ワークショップを始められたのは、いつくらいからですか?
柳瀬 CMと同時に始めました。DIYの楽しさを知ってもらおうと、「工作教室」という名で椅子や机をつくったりしたのです。
私は、入社1年目は現場に入って全店舗を回りました。そのとき、得意分野は違うもののスキルの高い社員が多いという実感を持ちました。そんな人材が全店にいますから、テーマと手順書さえ渡したら主体的に工作教室を開いてくれるんです。
―全店で、ですか?
柳瀬 全店で同じ教室をやるんです。その講師を自前でやれるということも、当社の強みだと思います。
そうした自分のスキルを気づいていなかった社員も多く、ワークショップが社員自身の自己発見にも繋がったりもしているんです。
園芸では、独自の寄せ植えの方法を編み出してテレビの園芸番組に出ている社員もいます。彼は、お客様にもファンが多いんです。
―それはすごいですね。
柳瀬 ワークショップは私にとっても社員の隠れた才能を発見できるいい機会になりましたし、直接いただけるお客様からの「ありがとう」「楽しい」という言葉が社員のモチベーションにもなっています。
そんな中で顧客を敬う気持ちも自然に育ったと思っています。今では自治体や公民館などに呼ばれ〝出張ワークショップ〟をすることも多くなりました。
かつてグッデイでは「自分の売り場は自分でつくる」というスローガンの下で、「数字を見るな。勘が鈍る」と言われてきたそうだ。柳瀬さんはこの企業文化も変えた。経営において重要なのは正しい情報をタイムリーに入手し、すぐさま最適な手を打つことだ、と思っているからである。この思いが自社のDXの原動力になった。
― 入社されたときはメールも使っていなかったと伺っています。
柳瀬 実は1990年代の中頃からシステム部でPOSシステム(販売時点情報管理)を構築していて、ウイルスの侵入防止などのセキュリティからメールは禁止されていたんです。それでは時代の変化に置いていかれると、入社した年にメールのやり取りをできるようにしたのです。
― デジタル改革はそこから始まったということですね。
柳瀬 確かにそう言えますね(笑)。本当にいいシステムだったのですが、ただ必要なデータを取るにも、何かの係数を掛けてデータ分析するのにも時間がかかる。
「COBOL」(コボル)という古いプログラミング言語で構築されていて、当時のシステム部長しか使えませんでした。
古いシステムなので新しいエンジニアには使えないし、かと言ってシステムをつくり変えるために外注に出すと費用がかかり過ぎます。サーバーを新しくするだけで5000万円もする。しかも新しいシステムが経営者の意志を反映したものとは限りません。
― その時代を「暗黒期」とおっしゃっていますね。
柳瀬 はい。7年間です。光が差したのは、システム部長が代わり、新しい部長が「クラウドにデータを入れてみました。使ってみてください」と言ってきたんです。
―何年頃ですか?
柳瀬 2014(平成26)年です。
クラウドが身近になった頃です。
Googleのクラウド上のデータベースにPOSデータを入れてくれたんです。やってみると、確かに使える。本当に可能性が見えました。
何かを始めれば、必要な人が現れる
― その後、どういうふうにDXを進めていかれたのですか?
柳瀬 まず思ったのは、クラウドにデータを上げて、あとはBIツール(分析ソフトウエア)があれば、ほぼシステムはつくらなくていいなということでした。
取材・文 中之町新
撮影 手島雅弘
本記事は、月刊『理念と経営』2022年12月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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