『理念と経営』WEB記事

いまこそ、本気でパーパス経営を!

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充 氏 ✕ 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授 入山章栄 氏

「微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」などを活用した食品や化粧品から、バイオ燃料の製造・開発まで、数々のイノベーションを起こしてきたユーグレナは、やがて訪れるであろう“大転換期”に備え急ピッチで社内改革を進めている。「バングラデシュから栄養問題を失くす」と志し、同社を牽引してきた希代のアントレプレナーの目に、未来の社会はどう映っているのか―。「世界基準の経営理論」に照らして、入山教授が出雲流経営の本質に迫る。

「Sustainability First」に込めた思いとは?

―御社は2020(令和2)年、創業15年の節目に、「ユーグレナ・フィロソフィー」として「Sustainability First」を掲げられました。創業時から一貫してサステナブル(持続可能な)ビジネスを追求してこられたわけですが、それをあえて改めて掲げた理由から伺えればと思います。

出雲 ユーグレナにはいま、仲間(社員)が(連結含め)800人以上います。みんな真面目なので、社長の私が言ったことをすべて真剣に受け止めてしまうんですね。私は朝思いつきで言ったことを夕方には忘れてしまうようなところがありますが、仲間たちは「社長の今朝の言葉をどう実現すればいいか?」という会議を夕方に開いていたりするんです(笑)。聞き流していいことと、じっくり考えてほしいことの区別がうまく伝わっていない。
そこで、「これだけは何があっても変わらない」という、ユーグレナにとっての「北極星」を改めて掲げ、それを基準として現場リーダーに判断してもらおうと考えたのです。「Sustainability First」なら、全仲間が「うちにとって何よりも大切だ」という認識を共有していますから。

入山 ユーグレナという会社はある意味で宗教に近くて、出雲さんは教祖に近いと僕は感じています。宗教にネガティブなイメージを抱く人も多いでしょうが、ユーグレナは〝よい宗教〟です。出雲さんの信念と理想に共感するフォロワーたちが、社員として集っている。いわば、出雲さん自身が社員にとっての北極星となって進んでこられた。ただ、宗教にはどこかの時点で急成長するステージがあって、その段階で教祖からある程度離れないといけないんです。みんなが教祖のほうばかり見ていると、大きな組織はまとまらないし、広がらない。キリスト教の歴史が好例で、イエス・キリストが亡くなって、『聖書』が成立し、ペテロとパウロが宣教を始めてから世界宗教になったのです。
キリスト教の世界宗教化には約500年かかりましたが、現代企業は展開が早いので、上場されて10年が経った現段階が〝出雲教〟から脱皮すべき時期なんですね。出雲さんはそれを無意識に直観されたからこそ、「自分ではなく、『Sustainability First』というフィロソフィー(哲学)を北極星として進め」と、改めて社員に宣言されたのではないでしょうか。

出雲 先生、核心をつく見事な分析です。私が言いたかったのはまさにそういうことなんですよ。
これまでユーグレナが目指してきたこと―例えば、「バングラデシュの子どもたちを栄養失調から救う」とか、「日本のエネルギー問題を解決して、地球温暖化や気候変動の解決に貢献する」といったことは、私の個人的ストーリーとリンクしたプライベート・ミッションです。私はユーグレナを、そのような個人商店で終わらせたくない。もう一段視座を上げて、グローバル・コモンセンス(良識)にまで高めていかないといけないのです。
創業当時にはそこまでの意識はなかったんですが、いまはそう考えています。ユーグレナには優秀な800人以上の仲間と、10万人以上の株主様と、70万人以上のお客様がいらっしゃって、個人商店で終わらせてはもったいないからです。その方々の、「ユーグレナの商品を使っていて楽しい」「株主をやっていてうれしい」「ユーグレナに勤めていて面白い」という内発的動機を強化するために、「Sustainability First」を改めて掲げた面があります。

愚直にやり続けていったとき、「潮目が変わる」時期がくる

―御社はいま、時代の追い風をすごく受けていらっしゃいますね。
出雲社長はご著書でも〝「3・11」(東日本大震災)のような時代の節目のたび、人々の環境意識が高まり、ユーグレナのファンが増えた〟と書いておられますが、「SDGs」が時代のキーワードとして普及したことも大きな追い風でしょう。

出雲 いや、「時代の追い風」なんて、まだ全然感じていません。仲間たちも誰一人感じていないと思います。「3・11」での経験、「SDGs」の普及を通じて、うちの会社に共感してくれる人が増えたのはたしかです。でもそれは、1%だった共感層が15%に増えたにすぎません。15倍になったとはいえ、まだマイノリティです。世間のマジョリティ、85%の人たちは共感してくれていないのです。例えば、ユーグレナが製造・販売しているバイオ燃料を名古屋のガソリンスタンドで試験的に販売していますが、あまり売れていません。

入山 ユーグレナの商品だとわかっても売れないんですか?

出雲 ええ。「サステナブルなオイル」という意味で「サステオ」と名付けましたが、売れません。だって、CO2が出なくて環境に優しいだけで、燃料としての性能は同じなのに値段は割高ですから。
私たちは、「環境問題に貢献できれば、マイノリティのままでいい」とは考えていません。マジョリティ―51%以上にならなければ世界は変えられませんから……。その意味で、ユーグレナのファンが15倍に増えても、まったく追い風ではない。

入山 経営学者の目から見ると、出雲さんは専門用語で言う「インスティテューショナル・アントレプレナー(Institutional Entrepreneur)」に当たります。日本語では「制度起業家」と訳されますが、根本的に社会の制度や仕組みまで変えようとする起業家のことです。だからこそ大変なんですね。
すでにあるマーケットに目新しいものを提供して、それをビジネスとして成立させるだけなら、ただの起業家です。出雲さんがやろうとしているのは、社会の常識そのものをひっくり返そうとすることですから、それを一企業でやろうとするのは大変です。既得権益を守ろうとする敵も多いでしょうし、いろんなところに障壁があるでしょう。
ただ、過去の制度起業家たちの歩みを振り返ると、愚直にやり続けていったとき、大きく潮目が変わる時期がどこかで訪れるんです。共感してくれる人が一気に増えて、岩盤のようだった制度が変わる。そのときが来ると、それまでユーグレナの推進する変革に反対していた人たちまでが、「私はずっとユーグレナを応援してきたんだよ」などと言い出すはずです(笑)。
僕は、「どういう制度起業家が成功するんですか?」と問われたら、「成功するまで、あきらめずにひたすらやり続けた人です」と答えます。

若い世代が”マジョリティ“になれば、社会は一気に変わる

―出雲社長は、近著『サステナブルビジネス』(PHP研究所)の中で、その「時代の潮目」が2025(令和7)年にやってくると、繰り返し書いておられますね。

出雲 ええ。私はそれを確信していますから、まったく悲観していません。仲間たちにもよく言っているんです。「いまはつらい思いをさせるけど、あと3年で日本社会が一気に変わって、僕たちが輝く時代になるからね。もう少しの辛抱だよ」と……。

―なぜ2025年を「潮目」と考えるのでしょう?

出雲 25年になると、7170万人いる生産年齢人口の半分以上が「ミレニアル世代」(2000年以降に成人した世代)になるんです。ということは、彼らの価値観が日本社会のマジョリティになるということです。

写真 中村ノブオ
構成 本誌編集長 前原政之


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年12月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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