『理念と経営』WEB記事

文具と人をつないだリアル店舗の新たな形

株式会社ホリタ 代表取締役 堀田敏史 氏

中小企業庁が主催する「第二回アトツギ甲子園」で最優秀賞を受賞し、今年話題となった「ホリタ文具」。
福井県に店舗を構えながらも、直近の年間来客数は約70万人にも上るという。
なぜホリタ文具はお客様に愛されるのか、堀田社長が発信する「リアル店舗」の魅力と新しい価値。

文具で「田舎のディズニーランド」を作る!

今年3月、中小企業庁主催の「アトツギ甲子園」で最優秀賞を受賞したのが、福井県にある文具店、株式会社ホリタだ。

「地方で文具の小売りとは大変だ、というイメージがある中、今までにない切り口で地方を再定義し、革新的価値を提供できたことを評価していただいたのだと考えています」

こう語るのは、3代目社長の堀田敏史さん。早稲田大学を卒業後、大手証券会社を経て2008(平成20)年に26歳で東京から戻った。祖父が作った文具店を母が継ぎ、卸を中心に事業を営んでいたが、小さな老舗は今や6店舗を展開、地元では知らない人のいない成長企業になっている。従業員十数人の会社を継ぐ決断をしたのは、商売の原点に触れたことだった。

「店番をしているとき、消しゴムを買ってくださったお客様がいらしたんです。ありがとうございます、と言うと、こちらこそありがとう、と言ってもらえて。頭を殴られたような衝撃を受けました。文具って、感謝してもらえるんだ、と。こんなありがたい商売はない、と思ったんです」

家を継ぐかどうかは別にして、いつか大きなことをやってみたい、と考えていた。旧態依然とした手書き納品書を書く日々に追われながらも、「文具店からエンターテインメントカンパニーに変わる」「田舎の身近なディズニーランドを作る」と周囲に熱く語っていた。

「文具って、子どもに夢を与える商売じゃないですか。もっとワクワクできるはずなんです。ワクワクといえば、ディズニーランド。子どもも大人も入った瞬間にグッとテンションが上がる。これを文具で生み出せないか、と」

だが、まだまだ小さな文具店。周囲が呆然としたのは、想像に難くない。実際、従業員は次々に離れていった。しかし、思いはブレなかった。2009(同21)年に両親とともに2店目を出店。大きな転機となったのは、2014(同26)年の3店目だった。

「自分に子どもができて大きな公園に行くようになると、とてもたくさんの子連れの家族が集まっていて驚きました。これは何かできるんじゃないかと思ったんです」



アートと知育をベースとした学びの場「ホリラボ」。ホリタ文具では、このほかにもさまざまなイベントを開催し、子どもたちだけでなく大人たちも楽しんでいる
(写真提供 株式会社ホリタ)

業種ではなく、業態にならなければいけない

近くで居抜き物件を探し始めたところ、運命的な物件に出会う。なんと300坪。地方の文具店が出店するような広さではない。だが、堀田さんはそうは考えなかった。

「文具のメインユーザーの子どもたちだけじゃなく、一緒に来店した家族も楽しめる場を作ればいいんじゃないかと思ったんです」

オープン時にはお笑い芸人などを呼び、ラジオの収録場所にもなった。その後は週末を中心に、地域/アートのワークショップを店舗内で開催。金沢学院大学芸術学部の棒田名誉教授と連携して独自にカリキュラムを用意した。やがて、予約が取りにくくなるほどの人気ワークショップになった。

「広くてスペースがありますから、何か面白いことをやりたいね、と。遊ぶスペースも作りましたし、滑り台も設置しました」

大人向けには、キッチン用品・雑貨や、最新のビジネス用品、高級筆記具などを幅広く揃えた。デモンストレーションで商品の良さを体感してもらえるコーナーも作った。

「自分たちは文具店だ、なんて単なる自己満足だと思うんです。ドラッグストアと比較すると、文具業界は文具に固執し過ぎています。お客様から見れば、もっと便利にいろいろ買えたほうがいい。業種ではなく、業態にならなければいけないと思ったんです」

これまでになかった文具を中心とした新しいビジネスモデルの巨大店舗は、福井の人々の度肝を抜いた。しかも、子どもが知育玩具の使い方を学んだり、工作に取り組んだりしている間に、大人はリラックスして過ごせる。家族みんなで楽しめる。まさに、文具と人を新たにつなぐ、田舎の身近なエンタメ施設ができたのだ。

「みんなが振り向いてくれたのは、このときからですね。すげえ文具店ができた、週末はホリタ文具に行ってみよう、と。ワクワクしてもらうことができたんです」

しかも、ホリタ文具は文化的・教育的な価値のある商材を扱っている。例えばゲームセンターに行くのとは違い、家族で堂々と利用できるのだ。その後、2店舗を次々に出店。クチコミも相まって集客力はさらに高まり、年間70万人が来店するまでになった。福井県の人口は約76万人なのに、である。

「ただ、まだ文具店から抜け切れていない、という思いがありました。それで、集大成を作るべく、考えを練っていたんです」

取材・文 上阪徹
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年12月号「特集1」から抜粋したものです。

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