『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年11月号
廃棄野菜の価値を高める「おやさいクレヨン」

mizuiro株式会社 代表取締役 木村 七保子 氏
規格外になった廃棄野菜と米油でできた『おやさいクレヨン』は、「もったいない」に価値を加えたアップサイクル商品だ。このようなクレヨンを作ろうと考えた“発想の源”を木村社長に伺った。
ほうれん草のゆで汁にアイデアが浮かんだ
クレヨンの箱を開けると、その中に広がるのはカラフルな野菜の色だ。とうもろこし、カシス、りんごやキャベツ……。まるで多くの作物がぎゅっと詰まったような『おやさいクレヨン』。原料にはスーパーでは売られない規格外品や葉っぱの切れ端を利用し、廃棄野菜の「アップサイクル」に一役買っている。
2014(平成26)年の発売以来、贈答用向けの「2000円」という価格にもかかわらず、累計16万セット以上のヒットを遂げているこの商品、実は青森県で一人の女性が子育てをする中で思いついたものなのである。
「子どもと一緒にほうれん草をゆでていた時、『このゆで汁を絵の具に出来ないかな』と思ったことが、野菜でクレヨンを作れないかと考えたひとつのきっかけでした」
mizuiro株式会社の木村七保子社長は言う。
当時、彼女はシングルマザーとして青森市で子育てをしながら、独立してフリーランスのデザイナーになったばかりだった。前職では仕事が夜遅くまであり、まだ幼い子どもと過ごす時間が作れなかった。その中で独立した彼女は、日々の仕事をこなしながらアイデアを思いつく。それが、野菜を利用して子どもが食べてしまっても安心なクレヨンを作れないか、というものだった。
その企画を青森市の六次化支援の窓口で相談すると、補助金が出る仕組みがあるという。応募をしてみたところ企画が通り、あれよあれよという間に一人の「起業家」となった。スタッフは彼女も含め、震災後に福島県から避難してきた男性、ハローワーク経由で入社した女性の3人だった。
「でも、最初はクレヨンの作り方もまったく知らなかったんです」
従来のクレヨンは顔料をろうで固めている。そこで野菜を溶かし込んで製氷機などで固めてみたが、ぼんやりと色が付くだけで上手くいかない。野菜の粉末を活用するなど試行錯誤を続ける中、YouTubeで作り方を調べていた時、名古屋の老舗のクレヨンメーカーを知り、電話をかけたという。すると、担当者が「それは面白そうだ」と野菜の粉末とお米の油を使った試作品を作ってくれたそうだ。
「おやさいクレヨン standard(全10色)」。主に青森県産の廃棄野菜を用い、地域に貢献している
(写真提供:株式会社mizuiro)
彼女がこのクレヨンの開発を手探りで始めたのは2013(同25)年。まだ社会にはSDGsという言葉はなく、「持続可能」といったキーワードもこれから注目を浴びようとしていくタイミングだった。
そんな中、彼女が規格外品や野菜の切れ端など、廃棄される野菜に注目したのは、原料を探すために青森県内の農家を視察していた時だ。畑の脇に大きさや形の関係で市場に出せない、山積みになったキャベツなどの野菜があった。
「これは何に使うんですか?」と聞くと、一部は生産者が自分たちで食べるが、残りは廃棄するということだった。
「もともと食べ物を文房具にするということに、私の中でも引っ掛かりがあったんです。こうした野菜を使えば原価も安くなるし、環境にもいい。そう思った瞬間でした」
後にこの「気づき」が、「持続可能な社会」というキーワードとも結び付いていくのである。
取材・文 稲泉連
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年11月号「特集2」から抜粋したものです。
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