『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年11月号
我々の真価は、お客様が証明してくれる

メーカーズシャツ鎌倉株式会社 取締役 佐野貴宏 氏
VAN出身の貞末良雄氏が「手に届く上質」をキーワードに創業した同社が突き進む“持続可能”な経営――。
業界を変え、作り手を守る
1993(平成5)年、日本製の高品質なシャツを4900円(税抜き)というお値頃価格で展開するショップを開業。「鎌倉シャツ」の愛称で一気に多くのファンを獲得し、今や全国22店舗を構え、海外にも販路を広げているメーカーズシャツ鎌倉。驚きの均一価格を実現させたのは、業界の問題点に気づいていた創業者の強い思いがあったと語るのは、佐野貴宏取締役だ。
「流通の中で『生じるのは仕方がない』とあきらめられていた中間コストを省き、しかも50%まで原価率を引き上げたら、市場価格の半分でも高い品質の商品が供給できるのではないか。そう考えたんです」
背景にあったのは、業界を変え、作り手である日本の縫製メーカーを守ることだった。
「工賃を上げる、繁閑の波を減らす、日本製で世界に打って出る。そうすれば、日本のものづくりを守ることができる、と。振り返れば、価格設定は明らかに大胆過ぎたと思います。しかし、だからこそ、お客様がその品質の高さに驚き、それが口コミで広がって売り上げは拡大、利益が後からついていったんです」
そして25年にわたって長く親しまれてきた均一価格が変わったのは、2017(同29)年のこと。ニュースにもなった。
「数十万枚を扱うようになり、日本の有力ドレスシャツ縫製工場の4割と取引するようになって、自分たちの責任は創業時よりもはるかに大きくなっていました。日本のものづくりの競争力を上げ、設備投資を推し進めるためにも、工賃を上げる必要があった」
だが、このとき値上げという言葉は一切、使っていない。既存商品を値上げするのではなく、5900円(税抜き)の新しい商品を投入したからだ。告知も店頭で新モデルが出たことを伝えただけだった。
「それまで以上に品質レベルを上げた商品を新たに投入し、真価を問うたのです。すると、お客様が新しい商品を支持してくださるようになった。結果的に、スタンダードな商品が5900円に移っていったんです。お客様が証明してくれたんです」
事業が順調に拡大していく中、実は社内では早くから次に向けての取り組みが進められていた。さらにグレードを上げるべく研究開発を行っていたのだ。だからこそ新商品を投入でき、客単価アップに成功した。
「最初の6カ月は売り上げが2割落ちました。しかし、1年足らずで販売枚数は戻り、売り上げも利益も上がりました。結果、工賃も上げることができた」
もはや早さと値段の時代ではない
しかし今、30年近い歴史の中で、人件費、原材料費、為替の3つがこれほど高騰したのは初めてという事態に直面している。原綿価格は2倍以上になり、製造原価は2割上がった。
「正直、八方塞がりです。しかし、コストアップに対して議論したところで安く仕入れられるわけではないし、安く仕入れられるとしたら、それはおかしいですからね」
そこで決断したのが、9月からの現行税抜価格からプラス1000円の値上げだった。
「これまで支えてくださったお客様のためにも、という思いがあり、タイミングは遅くなってしまったかもしれません。しかし、原材料費などが急に下がることがない今、いつか判断をせざるを得ませんでした」
だが、反響は思ったほどないという。一つは、既存の商品を値上げするのではなく、あくまで9月以降に投入される新商品から、としたことだ。また、実は2017年から、価格設定に広がりを持たせるようにしていた。
取材・文 上阪 徹
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年11月号「特集1」から抜粋したものです。
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