『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年10月号
潜在ニーズを見事に引き出した「四角いフライパン」

株式会社ドウシシャ ライフスタイル事業部 荒木優介 氏
調理器具の中でも収納場所に困るのがフライパンだ。ドウシシャから発売された「sutto(スット)」の形状は、なんと四角。しかも発売以来、生産が追いつかないほどの勢いで売れているという。
大阪と東京に本社を置くドウシシャには、一つの社是ともいえるキーワードがある。それは「ニッチの中でナンバーワンになること」――。
例えば、同社の人気商品であるかき氷機は、これまで業者向けだった「かき氷」を家庭内で楽しめるようにしたことで知られる。また、機能性とデザイン性を兼ね備えたステンレスボトルを開発し、「デザインボトル」という新しい概念を広めたのも同社だ。
現在、入社5年目の荒木優介さんはそんな同社の価値観を、まさに体現する商品を生み出した26歳の若手社員だ。
フライパンはなぜ丸いのか?
2年前、大阪の営業部から東京のライフスタイル事業部に異動した際、彼は引っ越し先のワンルームで、あることに気づいた。
「どうしてフライパンは丸いものばかりなのだろう?」
フライパンはその形状のため、一人暮らしの部屋では置く際に場所を取る。その上、シンク下の収納スペースに出し入れするときに毎回かがまなくてはならない。そこで彼が企画したのが、底の深い四角い「sutto」だった。
「なんとか小さなスペースにフライパンを収納できないだろうか。そう思ったのが、この商品企画を思いついたきっかけでした。例えば、コンロの横に立てかければ自立するような形のフライパンがあってもいいのではないか、と」
ただ、半年ほどかけてデザインを考案し、3Dプリンターなどを活用して試作品を作ったものの、最初の企画会議での上司の反応は決して良いものではなかった。フライパンはなぜ丸いのか。そこには歴史的な必然性があるからだ、という先入観が彼らの中にあったからだ。
「特に和食の煮物、中華料理の炒め物やチャーハンなどの調理では、フライパンは丸い形に合理性がある。この形には歴史的な必然性があるんだ、という反対意見が多かったんです」
しかし、家族の形態やライフスタイルは時代とともに変わる。特に単身世帯の多い都市部では、冷凍うどんやパスタ、レトルト食品も無数に販売店に並んでいる。底の深い四角いフライパンは、それらの調理に向いているはずだった。
調理で生じた汁が皿に注ぎやすいようにも改良し、彼は会社の調理室で鶏肉料理などを作り、その動画を企画会議で見せながらプレゼンを繰り返した。営業部からは「売れない」という意見が根強くあったが、ひとまず発売までこぎつけたのは2021(令和3)年2月のことだ。
すると、当初の予定だった1万枚はあっという間に品切れとなり、生産が追いつかない状況になる。その予想外の展開には社内でも驚きの声が上がった。現在、2021年の実績でsuttoシリーズの売り上げは20万枚。まさに「ニッチの中のナンバーワン」の商品となったのである。
取材・文 稲泉 連
写真提供 株式会社ドウシシャ
本記事は、月刊『理念と経営』2022年10月号「特集2」から抜粋したものです。
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