『理念と経営』WEB記事

働くシニアの真剣さと笑顔が会社の力になる

株式会社大津屋 代表取締役 小川明彦 氏

福井県でローカルコンビニを展開する大津屋。大手コンビニにはない店内調理が人気を博し、地元の人々から愛されている。その施策に一役買っているのが同社の約2割を占めるシニアスタッフだ。彼らがどのように活躍しているのか、同社の取り組みに迫る。

福井県初のコンビニ「オレンジBOX」を開店

惣菜屋とコンビニがドッキングしたユニークな形態の店舗「オレンジBOX」と「オレボステーション」を福井県で展開する株式会社大津屋。一般的なコンビニ商品が並ぶスペースは店舗の約半分くらいで、残り半分は多種多様な手作り惣菜とイートインコーナーが占めている。いわば「ダイニング・コンビニ」とでも呼べる業態だ。従業員は約350人。そのうち約2割が60歳以上のシニアで、同社の大事な主戦力となっている。

大津屋の歴史は古く、1573年に創業した酒造業がその前身。現社長の小川明彦氏が引き継いだ時点では、酒造業を廃業し業務用の酒屋に業務転換されていたが、新たなビジネスチャンスを切り開くべく、当時はまだ普及していなかったコンビニに挑戦することを決意した。

1981(昭和56)年に一店舗目となる「オレンジBOX」をオープン。初日は珍しさもあってか日商100万円を突破したが、日を追うごとに右肩下がりで、最終的には日商8万円まで落ち込んだ。あれこれ工夫を重ねたがどうにもならない。

小川社長は当時の苦境をこう振り返る。

「当時の福井には、コンビニはゼロ。一見スーパーのように見えるのに肉も魚もないことにお客様は違和感があり、夜遅くに買い物をする習慣もなく、コンビニという文化が全く理解されなかったのです」

「コンビニ文化を作るしかない」と考えた小川社長は、地元テレビのCMに打って出た。制作費は限られていたので、スライド形式で商品を次々に映し出し、軽快な音楽をバックに英語で「ミッドナイト・エブリデー・オープン、バラエティ・フレッシュビア・マガジン」と謳った。これをきっかけに、車を持つ若者たちが夜になるとお酒を求めて集まって賑わい始めた。

1986(昭和61)年頃になると、大手コンビニが福井にも進出。彼らに勝つには差別化しかない。こだわったのは、タバコと酒の品揃え。大手コンビニは、人気の高い数種類のタバコと酒のみだったが、同社は種類を揃えたことで、遠方からの客足が伸びた。加えて、今では当たり前だが、当時の大手コンビニにはなかったおでんも置いた。これが大ヒットした。

「そこで試しに店のレジカウンターの横に家庭用のホットプレートを置いて、商品棚の焼きそばを調理して提供してみると、もっと売れたんです。これを見て、コンビニに来るお客様が欲しいものは惣菜や弁当なんだと閃きました」

これが手作り惣菜や店内調理へとつながっていき、さらに売り上げが躍進。1990(平成2)年には5店舗まで拡大した。



   福井県初のコンビニ「オレンジBOX」1号店の外装

シニア雇用が生んだ思いもよらぬ効果

さて、なぜ大津屋はシニアを多く雇うのか。その背景となったのは、ある事件だった。某大学の正門前に建てた店舗は、学生たちに支えられ売り上げは好調だったが、どういうわけか利益が残らない。万引きが原因だと考えて警備員を置いても変わらない。よくよく調べてみると、学生アルバイト自身が万引きしていたことが発覚したのである。しかも、先輩から後輩へまるで伝統のように万引きが受け継がれていたのだ。

この現状を打破するために、小川社長は、長年社会人として、あるいは主婦として働いてきた責任感のあるシニアを雇うことにした。この判断が見事に的中。不正がなくなったことは言うまでもないが、学生のような急な休みもなくなった。また、仕事に対する真剣さが違っていた。おでんの作り方一つにしてもスタッフ同士で論争が起きるくらいみんな熱心に働いてくれたのだ。

さらに、思いもよらぬ効果も生んだ。

「学生と違って何年間も勤務してくれるので、お客様と顔なじみになるのです。例えばお客様の車が停まると、所定のタバコをカウンターに出して待つ。こうして固定客が増えていきました」

同社の売りである惣菜や店内調理についてもプラスに働いた。

「うちの料理は、家庭料理の延長線上にあり、板前やコックが必要なわけではありません。飲食店に勤務していた人や料理好きな人を中心に、お互いが学びあってみんなでメニューを開発します。そうすると、自分たちが作ったメニューは、たくさん売りたくなる。売りたい気持ちが違うのです。結果として仕事が丁寧になる。加えて、福井県の昔ながらの伝統の味を生かすこともシニアだからこそできました」

こうして、大手コンビニの商品とは異なる手作りのおいしい故郷の味が生まれた。



   煮炊きを行うシニアスタッフの様子

取材・文 長野修
写真提供 株式会社大津屋


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年10月号「特集1」から抜粋したものです。

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