『理念と経営』WEB記事

昭和の復刻グラスがミリオンセラーに

石塚硝子株式会社 ハウスウェアカンパニー 杉本 光 氏

昭和の家庭でよく見かけたプリント柄のグラスが、新たにリメイクされ、今、若い女性を中心に人気を博している。一度は廃番になった商品が復刻された背景には、3人の女性社員たちの奮闘がある。

懐かしさと同時に真新しさを感じた

グラスやコップなどに花柄や動物、風船などのプリントをあしらった「アデリアレトロ」シリーズは、今年で創業203年目を迎える老舗企業・石塚硝子が、1970年代まで製造していた製品の復刻版だ。2018(平成30)年の発表以来、すでに約100万個が売れているという。

同社の新たな主力ラインアップに育てた一人、杉本光さんはそのきっかけを次のように語る。

「インスタグラムなどのSNSで、昭和当時に生産されていたアデリアの写真が、想像以上にたくさんアップされていたことでした。私ももともと昭和レトロな雰囲気が好きだったのですが、世の中でもそれが魅力あるものとして捉えられているんだ、と気づいたのです」

このSNSでの小さなムーブメントに気づいたのは、杉本さんを含め3人の女性社員たちだった。当時、20代だった彼女たちにとって、社内のカタログで見る「アデリア」シリーズは、むしろ新しいものに感じられたという。

「昭和を知らない世代からすると、アデリアからは懐かしさだけでなく真新しさも感じるんです。デジタルで作られたものとは違った温かみのあるタッチ。すべてがきれいにきっちり作られたものに囲まれている今の時代には、この完璧過ぎない手作り感のあるデザインがかえって魅力になるんじゃないか。みんなでそう話しているうちに、商品企画にしてみようということになったんです」

立ちはだかった世代間の「感覚の壁」

だが、実際に企画会議の場でプレゼンをしてみると、上層部の反応はかなり厳しいものだった。昭和世代の上司たちにとって、同シリーズは「人気が低迷して廃番になった商品」であり、その世界観はあくまでも「時代遅れ」のものに映ったからだ。

「どうして一度は人気がなくなったものを、今の時代に復刻させるのか」

そう言われてしまえば、杉本さんたちには彼らを説得する材料がまだなかった。

そこで彼女たちが行ったのが、インスタでの評判をデータ化することだ。ハッシュタグをつけて検索すると、「アデリア」の投稿は約3000件に上り、そのうち7割がレトログラスに関する投稿だった。また、同時にアンティークショップの店主にも話を聞き、この商品には今、熱狂的なファンがいて、コレクター的な人気が出ていることも確認していった。

それでも企画会議でなかなかOKは出ない。落ち込むこともあったが、新たな資料や切り口を集めて提案し続けた。あきらめなかったのは、「一人ではなく、チームだったことが大きいと思います」と彼女は振り返る。3人は会議で跳ね返される度に、カタログを開いては議論し、昭和当時の「アデリア」を魅力的に感じる自分たちの感性を確認し合ったという。

その熱意が通じ、「そこまで言うなら――」という形で、2018年11月に「アデリアレトロ」のテスト販売を行えることになった。採用したのは「アリス」という商品で、花柄がプリントされた、シリーズを代表する商品だった。すると、瞬く間に販売予定だった約1500個の商品は完売し、その反響の大きさが次の新アイテム投入につながっていく。


取材・文 稲泉 連
写真提供 株式会社石塚硝子


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年10月号「特集2」から抜粋したものです。

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