『理念と経営』WEB記事

第30回/『シリコンバレーは日本企業を求めている――世界が羨む最強のパートナーシップ』

『理念と経営』の巻頭対談と響き合う一冊

『理念と経営』2022年10月号(9月21日発売)では、米シリコンバレーを拠点にベンチャー・キャピタリストとして活躍するアニス・ウッザマン氏(ペガサス・テック・ベンチャーズ代表パートナー兼CEO)と、米倉誠一郎先生(法政大学大学院教授/一橋大学名誉教授)の「巻頭対談」を掲載しています。

その巻頭対談とまさに響き合う内容となっているのが、お二人の共著である本書。こちらは対談集ではなく、担当章を分けて執筆しています。そもそも、今回の巻頭対談の企画の発端となったのが本書なのです。

したがって、本書と10月号の巻頭対談を併読すると、さらに深い学びが得られるでしょう。本書に例として登場する日本企業は大企業中心ですが、巻頭対談では読者対象に鑑み、中小企業に大きく寄せた内容になっています。

シリコンバレーとのコラボに未来を見いだす

本書は、タイトルが示すとおり、日本企業が長期低迷から脱する突破口を、シリコンバレーとのパートナーシップに見いだしていく一冊です。

そのために、著者たちはまず、なぜ日本企業が「失われた30年」と呼ばれる長期低迷に至ったのか、その背景を探っていきます。
それが米倉先生担当の第1章で、戦後から現在までの日本企業の盛衰史を、「ビジネスモデル」という観点から鮮やかに概説しています。

章タイトルが「楽観主義で行こう!」となっていることが示すように、米倉先生は日本企業と日本経済の未来について楽観的です。そして、明るい未来のために選ぶべき道として、シリコンバレーの先端ベンチャー企業とのコラボレーションを推奨しているのです。

続く第2章は、アニス氏が担当する「シリコンバレーのダイナミズムに学ぶ」。
“そもそも、シリコンバレーの何がすごいのか?”という「基本のき」を、歴史と現状から手際よく解説した入門編として読めます。

同じくアニス氏が担当した第3章は、日本企業のシリコンバレー進出が失敗する理由・弱点を列挙して解説する内容です。

第4章「最強のパートナーシップを築く」では、前章で指摘された弱点を克服して、日本企業が「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」によってシリコンバレーに進出するためのポイントが示されています(アニス氏はそれを「CVC4.0」と命名)。

また、投資の手順についてもくわしく解説されており、簡便なCVC入門として読むこともできるでしょう。

3、4章とも、シリコンバレーと日本企業を結ぶ「水先案内人」として活躍するアニス氏の経験が十全に生かされた内容で、目からウロコが落ちる思いがします。

短い終章(第5章)は、両著者の共著。CVCの起源となったとも言われるデュポン社の歩みなどを例に、“新しい血を取り込み、変化し続けることこそ、これからの企業が生き残る道”と、両著者は訴えます。

中小企業経営者にとっても学びが多い

先に述べたとおり、本書は大企業の事例が中心です。また、そもそも、シリコンバレーのスタートアップとパートナーシップを結ぶこと自体、多くの中小企業経営者にとってはハードルが高すぎるように思え、「うちには関係ない話だ」と感じてしまうかもしれません。

しかし、けっしてそうではないことを、両著者は『理念と経営』の巻頭対談でくわしく語っています。

また、いますぐシリコンバレーの企業とコラボすることは難しいとしても、本書は中小企業経営者にとっても学びの多い内容です。

たとえば、企業によるイノベーションのありようが大きく変わり、一社だけですべてを完結させようとする「自前主義」は、もはや時代遅れであることが、よくわかります。それは中小企業にとってもしかりでしょう。

また、本書全体が、日本の企業経営者にとって希望を感じさせる内容になっています。たとえば――。

《(アニス氏が経営する)ペガサスには毎年5万を超すスタートアップからのアプローチがあり、約5000人の起業家にインタビューしますが、その全員が日本企業とのコラボレーションに熱い意欲を持っています》

『安いニッポン』(中藤玲著/日本経済新聞出版)がベストセラーになるなど、日本経済と日本企業の長期低迷ばかりが強調されがちな昨今ですが、両著者は日本企業の底力を高く評価する点で一致しています。

本書を読めば、中小企業経営者も未来に希望が湧いてくるでしょう。
ただし、その未来を拓くためには、「いま」という時代にふさわしい形に会社をアップデートしなければなりません。そのための道筋が、本書には示されているのです。

アニス・ウッザマン、米倉誠一郎著/ダイヤモンド社/2021年10月刊
文/前原政之

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