『理念と経営』WEB記事
特集
2022年9月号
基本理念と行動指針を背骨に、挑戦し続ける

株式会社アバンティ 代表取締役社長 奥森秀子 氏
創業者の渡邊智惠子氏は、日本におけるオーガニックコットン(有機栽培綿)事業の先駆者として知られる。二人三脚でその礎を築いてきた奥森社長は、2代目の役目をどう位置づけ、事業を推進しているのだろう。
同じゴールに向かって力を合わせた“同志”
現在アバンティの2代目社長を務める奥森秀子氏が、同社の創業者(現相談役)である渡邊智惠子氏と初めて出会ったのは、いまから四半世紀も前のことだ。
「当時、私は百貨店の研究所で働いていました。でも、いいものを作っても一年たてばセールで安売りされ、翌年もまた同じことが繰り返されるファッション業界の仕組みがどうにも好きになれなかった。だから、渡邊相談役から、アバンティはオーガニックコットンという地球環境にダメージを与えない製品だけを扱っていると聞いて興味を持ったのです」
1年後、奥森氏はアバンティに入社する。時間がかかったのは社員数2000人の大企業から3人のベンチャーへの転職を受け入れるのに、心の準備が必要だったからだという。
アバンティが立ち上げた「汚れのない清らかな状態をずっと維持し続ける」という意味のブランド『プリスティン』を世界に広げるのが、彼女に与えられたミッションだった。そして、それはとてつもなくハードルの高いチャレンジだということに、ほどなく気づくことになる。
「知名度はないのに、価格は決して安くない。商品コンセプトを説明しても、まだエシカルやサスティナブルといった言葉もない時代ですから、なかなか理解してもらえません。それでも会社の存続には利益が不可欠ですから、行商でもなんでもやりました。帰宅するのはいつも終電か始発。でも、楽しかった。自分はいいことをやっているのだから、続けていればいつか必ず何かが生まれるという自信があったのです」
商品のデザインや販売戦略では渡邊氏と意見が合わず、時には机を叩いて激しい口論を交わしたこともあったという。
「結局、2人とも目指すゴールは同じなんです。ただ、そこに至る道筋は1つではありません。それでしばしば衝突するのです。そのたびにお互いの考えが深まり、それがブランドの進化にもつながっていったのだと思います」
やがて、肌にストレスを感じさせないオーガニックコットンの心地よさがユーザーに浸透してくると、売り上げも拡大。2005(平成17)年に路面店1号店を東京・千駄ヶ谷にオープンするころには、経営も安定してきた。東日本大震災の翌年には、原発の風評被害で農作物を作っても売れなくなった福島の農家の人たちに綿花を育ててもらって、それをアバンティが買い取り製品にするという、「東北グランマ オーガニックコットンプロジェクト」を立ち上げるなど、活動の幅も広がった。
そして、18(同30)年には、「あなたのほうがプリスティン愛が強いから」という理由で、奥森氏は渡邊氏から2代目社長に指名されたのだ。
マネジメントで起こす「しあわせの循環」
「社長になったからといって私の中で何かが変わったということはありません。強いて言うなら、創業者の渡邊相談役は会社の基礎を築くことに心血を注いできました。その会社で働く人たちがもっと幸せになれるよう、マネジメントに注力するのが、私の役目ということになるのでしょう」
プリスティンブランドの商品は、当初はレディースだけだったが、今ではベビー服やメンズ、その他の日用品にも広がった。直営店は11店舗を数える。業績も好調で、コロナ禍で同業他社が苦戦する中、アバンティは昨年、過去最高益を計上したという。いいことを続けていれば何かが生まれるというのは間違いではなかったのだ。そして、それはまだまだ続いていく。
取材・文 山口雅之
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年9月号「特集」から抜粋したものです。
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