『理念と経営』WEB記事
編集長が選ぶ「経営に役立つ今週の一冊」
第29回/『アイデア・スイッチ――次々と発想を生み出す装置』

中小企業経営者にイチオシの「アイデア本」
新製品や新ビジネスのアイデアなど、中小企業経営者には斬新な発想力が求められる場面が多々あります。
大企業なら「企画開発部」「経営企画部」などの部署があって人材も豊富でしょうが、中小企業にはそうした部署がなかったり、担当者すらいなかったりするケースが多いので、なおさらです。その場合、経営者自らがアイデアを出す役割も求められることになります。
そこで今回は、数多く出版されている「アイデア本」「発想力強化本」の中で、中小企業経営者にイチオシの一冊を紹介しましょう。それが、この『アイデア・スイッチ』です。
刊行は2009年とやや古い本ですが、本書以上に当連載にふさわしい本はいまもほかに見当たりません。
というのも、アイデア本の多くが幅広い層を対象にしているのに対し、本書ははっきりとビジネスパーソン向けに絞った内容であるからです。
新商品開発、新事業の構想、新たな顧客層・販路の開拓、既存商品の新機能開発、新たな自社サイトの立ち上げ、新商品のネーミング・アイデアなど、想定されているケースはどれも、中小企業にも当てはまるものばかり。しかも、一人でもアイデア創出を実践できる方法ばかりが紹介されています。
たとえば、全5章のうちの第3章は、100円ショップで買えるアイテムだけで作れるさまざまな「発想支援ツール」の作り方・使い方が解説された内容です。
この章が象徴するように、予算や人員が乏しい中小企業でも簡単に取り入れられ、アイデアを生み出す助けになる「スイッチ」が、本書にはたくさんちりばめられています。
アイデアを生む発想法・発想ツールが満載
著者の石井力重(りきえ)氏は創造工学の研究者で、「アイデア創出支援」を行う組織「アイデアプラント」の代表です。
企業や大学、公的機関などで、アイデア発想法を実践する「アイデア・ワークショップ」や、アイデア創出の技術についての講演などを行っています。
多くの組織に対してアイデア創出支援を行ってきた石井氏が、プロとしての経験と知見を凝縮し、一般向けにわかりやすくまとめたのが本書なのです。
人間は、ただ白紙とペンを目の前に置いてアイデアをひねり出そうとしても、なかなか思い浮かばないものです。
しかし、そこにアイデアのトリガー(引き金)となる発想法やツールがあれば、格段に発想が生まれやすくなります。
《創造手法の専門家たちは、これまでに、さまざまな「アイデア創出方法」を見いだしています。つまり、「発想装置」を起動するための「スイッチ」が、実は存在しているのです。
おもしろいことに、このスイッチには複数の種類があります。「即効系」のものは短時間で次々と発想させてくれますし、「深考系」のものはステップを踏んで確実に創造的なアイデアを発想させてくれます》(「はじめに」)
そのような「アイデア・スイッチ」のうち、本書の前半には「即効系」のスイッチが、後半には「深考系」のスイッチが集められています。
例を挙げましょう。即効系スイッチの一つが、「SCAMPER(スキャンパー)」と呼ばれる発想法です。
《この方法は、発想法の専門家たちがたくさんのアイデアの事例から、「優れたアイデアを引き出す問いかけ」を整理したもので、いろいろな観点からアイデアを考え出すことができる道具です》
SCAMPERとは、「Substitute」(代用する)、「Combine」(組み合わせる)、「Adapt」(適応させる)など、7つの項目の頭文字を取ったネーミングです。
その7項目を48の質問に立て分け、アイデアを生み出したいテーマにあてはめて問いかけを重ねていくのがSCAMPERなのです。
たとえば、「Substitute」の質問には、「代用可能な部分はどれか」「何を代わりに使うことができるか」「他に誰を含めることができるか」などがあります。
そのような問いかけを、《ひとつの問いかけにつき、長くても1分程度にして》矢継ぎ早に重ねていきます。すると、48の問いかけが終わるころには、《たいていの場合、3つ以上のアイデアを思いつく》のだとか。
また、ツールの例としては「はちのすノート」が挙げられます。
これは、「マンダラート」と「マインドマップ」という2つの有名な発想法を“いいとこ取り”した、《アイデア創出専用のノート》です。数文字程度を書き込める小さなマスがたくさん並ぶ中に、六角形のマスがいくつかあるもので、それがハチの巣を連想させるためにこの名がついたのでしょう。
(「はちのすノート」のサンプルは本書に掲載されており、それをコピーして読者が使えるようになっています)
そのような発想法やツールが、次々と紹介されていきます。ほかには、「12変化リスト」、「531ストレンジ」「9windows」「6観点リスト」「発想トリガー・カード」などが登場します。
それらの中には、昔から用いられてきた発想法・ツールもあれば、著者が自ら考案したものもあります。「SCAMPER」は前者で、「はちのすノート」は後者です。
《アイデア・スイッチというコンセプトで説明したこの本の各手法は、どれほどの効果があるのか、自分自身で、この本を書く過程で実践して確認してみました。本の完成までに相当な回数の書き直しをしており、その過程でアイデア・スイッチを使って生み出したアイデアの数は、大小合わせて1000個以上にもなります。本に表われているのはそのうちの5%程度です》
「おわりに」にそうあるように、本書に紹介された「アイデア・スイッチ」の数々は、その有効性が著者によって確認済みのものばかりなのです。
具体例・「練習問題」があるからわかりやすい
本書は、ただ単に発想法・発想ツールを紹介するだけの内容ではありません。取り上げた「アイデア・スイッチ」一つひとつについて、ビジネスの現場でのアイデア創出にどう生かしていけばよいかが、具体例を通して語られているのです。
たとえば、随所に「練習問題」が設けられています。次のようなものです。
《優れた技術をもったスタッフがいるマッサージ屋があります。このお店は、優れたスタッフがいるにもかかわらず、立地がネックとなり、なかなかお客さんが増えません。そのため、他店にない新しいサービスを考えることになりました。あなたなら、どのようなサービスが浮かびますか》
そして、先ほど言及した「SCAMPER」を用いて、新しいサービスのアイデアをどう発想していったらよいかが、著者自身のアイデアを紹介する形で説明されていくのです。
練習問題の中に想定された具体例は、中小企業にもあり得るものばかりです。
そのため、読者は「なるほど、この発想法はこうやって仕事に生かしていけばよいのか」と、実感を持って理解することができ、わかりやすいのです。
仕事上、経営上必要なアイデアを探しているが、なかなか思い浮かばない――そんなとき、本書をパラパラとめくって、そこに書かれた方法を試してみるとよいでしょう。
石井力重著/日本実業出版社/2009年7月刊
文/前原政之
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