『理念と経営』WEB記事

第26回/『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』

企業の「カルチャー」改革の指南書

『理念と経営』2022年9月号(8月21日発売)では、マブチモーター株式会社代表取締役会長CEOの大越博雄氏と、遠藤功先生(シナ・コーポレーション代表取締役)の「巻頭対談」を掲載しています。

その対談の席でも話題に上った(誌面にはその部分は掲載されていませんが)遠藤先生の新著が、この『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える』です。

遠藤先生は、「ローランド・ベルガー」(欧州系最大の戦略コンサルティングファーム)の日本法人会長を長く務めるなど、企業コンサルティングのプロ中のプロです。

その豊富な経験を踏まえ、一般向けの経営書を多く著してきましたが、中でも本書は代表作の一つになるでしょう。遠藤先生自身が、「おわりに」に次のように書いているのです。

《私は2014年に『現場論』を上梓した。 2018年には私の「会社論」とも呼ぶべき『生きている会社、死んでいる会社』を出版した。
 そして、本書は私の「カルチャー論」である。
「現場論」「会社論」「カルチャー論」は、私のビジネスキャリアの後半戦における三部作とも呼ぶべき記念の一冊となった》

本書で言う「カルチャー」とは、《組織風土と組織文化をひとつのものとして捉え》た言葉です。
「組織風土」も「組織文化」も、数値化できず、目には見えない、曖昧模糊としたものです。しかし、カルチャーの良し悪しは確実にあり、それは企業の業績を大きく左右します。

全3部構成の本書は、第Ⅰ部で、《カルチャーという目に見えない曖昧な概念を理論的考察も含め整理》していきます。

そして、第Ⅱ部と第Ⅲ部では、どうやって企業カルチャーを改善していけばよいのか、具体的なポイントが示されています。

遠藤先生は、日本経済が「失われた30年」を経るに至った要因の一つが、企業の「組織風土の劣化」にあると捉えています。
「『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋」(副題)が示された本書には、日本経済再生への願いも込められているのです。

事例に即した実践的ヒントが満載

企業のカルチャーという曖昧なものをテーマに据えているだけに、「観念的な精神論、理想論ばかりが展開される本なのではないか」と危惧する向きもあるでしょう。しかし、読んでみればそんなことはまったくありません。

3つのケースと22の事例を通してカルチャーとは何かが論じられているため、著者の主張が「なるほど。そういうことか」とよく理解できます。

そして、それらの事例の大半は、遠藤先生自身がコンサルティング等で具体的に関わり、現場を目の当たりにしたケースなのです。
そのため、どの事例も豊かな臨場感を持って語られ、机上の空論は一つもありません。カルチャー改革の実践的ヒントが満載なのです。

経営者が社内改革に取り組む場合、規則や制度を変えるなど、目に見える枠組みからの改革になりがちです。
もちろん、それも大事ではあります。しかし、土台となるカルチャーが劣化している場合、枠組みだけを変えても改革はうまくいかないでしょう。
一朝一夕に変わるものではないとはいえ、カルチャーから変えていく必要があるのです。本書は、そのためのよきテキストとなるでしょう。

遠藤先生は本書で、日本企業のカルチャー改革の要諦として、「LOFT」という概念を提示します。
「LOFT」とは、カルチャーのよい企業の特徴を、次の4つの要素に腑分けしたものです。

①Light──身軽で気軽、軽快かつ軽妙で、フットワークのいい組織
②Open──開放的で風通しがよく、壁のない組織
③Flat──対等で上下を感じさせない仲間意識の高い組織
④Tolerant──異質を受け入れる耐性があり、受容性の高い組織

《「LOFT」なカルチャーを醸成するとは、多くの日本企業を覆いつくしている 重苦しく、堅苦しく、身動きがとれないような、がんじがらめの空気を一掃することである》

そして、社内に「LOFT」なカルチャーを醸成するための「9つのポイント」を挙げ、それらを一つひとつ詳しく解説することによって、カルチャー改革の具体的な道筋を示すのです。

企業のカルチャー改革は、業績アップのみならず、これからの時代に有能な若手人材を確保するためにも必須だと、遠藤先生は指摘します。

《20代、30代の有能な人材は、会社をカルチャーで選ぶ傾向が強い。
 給与などの待遇面はもちろん大事だが、若くても思う存分力を発揮できるオープンでのびやかなカルチャーを持つ会社かどうかを見定めている。
 人材獲得競争(タレント・ウォー)がますます苛烈になる中、健全で活力に満ち溢れた魅力的なカルチャーを創造することができなければ、有能な人材を採用し、リテンションすることなどできるはずもない》

カルチャー改革は「マラソン」である

書名に込めた思いについて、遠藤先生は「おわりに」で次のように記しています。

《カルチャーは経営において決定的に重要である。そんなことは多くの経営者も認識していると思う。
 しかし、そのカルチャーが経営のど真ん中に位置付けられているかといえば、とてもそうとは思えない。
 目先の数字や時代に迎合するための施策ばかりに目が行き、結果としてカルチャーをないがしろにしてきた。
カルチャー変革はボウリングにたとえれば「センターピン」だ》

本書は、まさに「経営におけるセンターピン」を狙うことによって企業改革のストライクを目指すものなのです。

そして、カルチャー改革の先頭に立つべきなのは、当然のことながら経営者です。

《「組織の熱量」は「経営トップの熱量」によって決まる。
 経営者の本気さ、真剣さ、覚悟こそが、すべての活力の源である》

また、本書には、かつて持っていたよきカルチャーをいつしか喪失することでダメになった大企業の例も挙げられています。
よき企業カルチャーは、一度作り上げたらそれで安泰ではないのです。

《トヨタでは「改善マラソン」 という言葉をよく聞く。
 改善とは「一度だけやっておしまい」というものではなく、マラソンのように持久力こそが重要なのである。
 だから、「よりよくする能力」は「よりよくしつづける能力」(capability to improve relentlessly)と記すのが正しい。
 単発的に「よりよくする」のではなく、その継続性にこそ真の価値があるのだ》

カルチャーの改革も、その企業が存続する限り続けていかなければならないものであり、その営みの継続によって、大地を踏み固めていくように少しずつ強固になっていくのです。本書は、そのことを教えてくれます。

遠藤功著/東洋経済新報社/2022年7月刊
文/前原政之

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