『理念と経営』WEB記事

第25回/『パーパスのすべて――存在意義を問うブランディング』

ブランディングに的を絞ったパーパス入門

日本における「パーパス元年」と呼ばれた昨年(2021年)来、『パーパス』の語を冠した本は次々と刊行されてきました。今年3月に刊行された本書も、その一つ。
数多い「パーパス本」の中で、当連載の第3回で紹介した名和高司先生の『パーパス経営』(東洋経済新報社)と共におすすめしたいのが、この本です。

本書は、山田敦郎・矢野陽一朗・グラムコパーパス研究班の共著。メイン著者の山田氏はグラムコ株式会社の社長で、矢野氏は副社長です。

山田氏は総合商社の丸紅を経て、1987年、日本初の「ブランディングファーム」(ブランド戦略の構築を業とする組織)であるグラムコを創業しました。同社が手掛けてきた企業ブランディング事例は、500以上にのぼるといいます。

そして、パーパスを軸とする企業ブランディング――「パーパスブランディング」についても、ここ数年、多くのクライアント企業をサポートしてきたそうです。つまり、日本における「パーパスブランディング」の先駆者が、グラムコなのです。

本書は、同社の豊富な経験を踏まえて書かれたパーパス入門です。
パーパスブランディングに軸足を置いた内容になっている点が、類書と一線を画す特徴といえます。

ミッションとパーパスの違いも詳細に解説

『パーパスのすべて』というタイトルが示すとおり、本書を読めば、パーパスについて一通りのことがわかります。
パーパスを巡る歴史から、国内外の大企業のパーパスの例、企業がパーパスを作るときの注意点まで、さまざまな角度からパーパスが解説されているのです。

《欧米では2000年代後半ごろから、企業理念の最上位概念としてパーパスを掲げる企業が増えはじめた。その背景にはリーマンショックを惹き起こした企業の短期的な利益の追求に対する反省や、持続可能性への意識の高まりがあった。そして2020年からの世界的パンデミックによって、企業の存続は社会との共生にあり、それには企業の存在意義や果たすべき役割を明記したパーパスを含む企業理念が必要になってきたという文脈がある》

そのように、パーパスが急速に広まるまでの歴史的背景が、時系列で詳しく解説されています。

また、わかりにくい「ミッションとパーパスの違い」についても、第3章を丸ごと割いてじっくりと解説されています。そこには、たとえば次のような一節が――。

《ミッション(使命)は「将来」に向けた「自発的目標」、パーパス(存在意義)は「今」求められている「存在理由」、つまり社会が当該企業・組織に求める社会との向き合い方と考えていただければよいだろう》

ただし、世の論者の中にはミッションとパーパスを同一のものとして捉えている人もいますし、本書にも次のような一節があります。

《ミッションに関していえば、先に「今日でも優れたミッションステートメントは数多ある」と書いたが、我々は「パーパスライクなミッション」と「ステレオタイプのミッション(或いは隣近所と同じようなミッション)」に分けて捉えようと考えている》

「ミッション」と銘打たれていても、本書の「パーパス」の定義にあてはまるものはあるし、逆もまた真ということでしょう。
ともあれ、この第3章は、「そもそもパーパスとは何か?」を読者が考えるための契機となるでしょう。

パーパスの実例集としても有益

本書の随所に、欧米や日本の大企業を中心に、多くの企業のパーパスが具体的に紹介されています。

たとえば、スリーエム(3M)のパーパスは「Use science-based innovation to solve real-world――科学に基づくイノベーションで現実の世界(の課題)を解決する」であり、アマゾンのパーパスは「Be the most customer-centric company on Earth――地球上で最も顧客中心の企業になる」である……という具合です。

そして、そのパーパスが誕生した背景などが紹介され、どのような点がパーパスとして優れているかも解説されていきます。

多くの事例を通して、読者はパーパスとはどのようなもので、何を目指して制定されるのかが、おのずと理解できるでしょう。本書は、パーパスの実例集として読んでも有益なのです。

なお、本書に例として挙げられているのはほぼすべてが大企業・グローバル企業ですが、だからといって、「パーパスは大企業のもの。うちのような中小企業には関係ない」と思い込んでしまうのは早計です。
本書にも、次のような注記があります。

《この項の最後に付け加えておきたいことがある。それは、パーパスは大企業だけのものではないということだ。日本の企業の99・7%は中小企業だが、規模の大小と関係なく自社のパーパスを自問してみたらいいだろう》

パーパス作りの具体的ノウハウも満載

本書はパーパスについて教養として学ぶためにも役立ちますが、同時に「実用書」でもあります。中小企業経営者が「うちの会社もパーパスを定めたい」と考えたとき、具体的に役立つパーパス作りのノウハウが満載なのです。

《近年国内でパーパスを導入する企業が増え、日本語で書かれたパーパスを目にする機会も既に多くなってきていると思う。これらを見ていると、非常にうまく作られていると感じるものがある一方で、そうでない例も見受けられる。パーパスには良し悪しがあるのだ。
 そこで、ここでは良いパーパスの条件とは何かを整理し、パーパスを策定する際に参考にしていただければと思う。
 良いパーパスの条件は大きく三つある。唯一無二であること、シンプルであること、大きな視点で語ることだ》

そのように、パーパスの良し悪しを見定める基準が詳しく解説されています。
その上で、第6章「実践・パーパスブランディング」では、企業がパーパスを策定するまでの具体的な手順が説明されているのです。

たとえば、策定プロセスの中では、《トップの意志や方針には最大留意しながらも、中堅社員や若手社員による特別チームを編成して、(それまでに実施した調査等をまとめた「統合分析報告書」を読み込んでもらったうえで)時間を掛けたブランドセッションを行うこと》が重要だと、著者たちは言います。

パーパスは、経営者側が一方的に決めて社員たちに“与える”ものではなく、社員みんなでじっくり話し合いながら作っていくべきものなのです。

また、この第6章では、「良いパーパスブランディング実践事例」として、三井ホームが2019年から取り組んだ全社的なリブランディングが、詳細に紹介されています。
これはいわば“パーパス作りの模範例”であり、中小企業がパーパス作りに取り組むとき、大いに参考になるでしょう。

実用性も兼ね備えたパーパス入門として、「パーパスを作りたい」と考えている中小企業経営者には一読の価値がある本です。

山田敦郎、矢野陽一朗、グラムコパーパス研究班著/中央公論新社/2022年3月刊
文/前原政之

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