『理念と経営』WEB記事
特集2
2022年8月号
会社は人を幸せにするためにある
シバセ工業株式会社 代表取締役社長 磯田拓也 氏
「今年、初めて法人税が払えました。本当に嬉しいですよ」
シバセ工業3代目社長の磯田拓也さんは、そう話す。
「これでやっと一人前です。一人前になるまで22年かかりました」
電子部品大手の日本電産に勤めていた磯田さんがシバセ工業に入社したのは、1999(平成11)年のことである。同社は妻の親戚が経営していたストローメーカーだった。2代目夫妻には子どもがいなかった。そこで3代目にと考えたのが磯田さんだったというわけである。
磯田さんの背中を押したのは、日本電産は自分が辞めても微動だにしないだろうが、シバセは誰かが後を継がないと会社がなくなるかもしれないという思いだった。しかも磯田さんの故郷の会社でもあったのだ。
最盛期は5億円以上あった売上高が2億ほどになっていた。売り上げのほぼすべてを頼っていた親会社からの発注が激減していたのだった。
だが、幸い会社には借金もなく、少しばかりの蓄えがあった。加えて、さまざまな種類のストローを作る技術力もある。それらをベースに、親会社からの発注があるうちに新しい仕事をつくって立て直していくしかない――。磯田さんは、そう考えた。
まず、営業担当者を1人雇った。そして、そのサポートのために当時はまだ珍しかった会社のホームページを立ち上げた。すると、ホームページを見て飲用以外の用途のストローの相談がくるようになった。
「このときストローは飲用だけのものではないんだと思ったんです。この発見は大きかったですね」
ホームページからの相談事を相手と一緒に知恵を出し合って解決していくことで新しい用途が広がった。いわばオープンイノベーションである。いまでは工業や医療などの分野で使うストローも作っている。これが同社の新しい柱になった。
「ストローは、薄肉のプラスチックパイプ、単純だからこそ応用範囲が広がります。ストローメーカーが減っていることもあって、オンリーワンになることができました」
磯田さんが経営理念に掲げたのは、「社員の幸せ」である。自分はそのために同社を継いだという思いがあるからだ。
「会社は人を幸せにするためにあると思うんです。その会社が無くなると働く場を失って社員は不幸になります。社員が頑張って会社の成長を実感できるなら仕事も楽しいものです。私はそれを日本電産で学びました。しかし急成長するには大変な努力が必要ですし、急成長はコントロールするのが難しくなります」
取材・文 鳥飼新市
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2022年8月号「特集2」から抜粋したものです。
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