『理念と経営』WEB記事

長寿企業に共通する3つの力とは

ノンフィクション作家 拓殖大学国際学部教授 野村 進 氏

地道に家業を営む守旧的なイメージの強い老舗企業――。だが、野村教授によると、その実態は「守り」ではなく「攻め」の、「静」ではなく「動」の組織だという。

日本は断トツの「老舗企業大国」

日本は世界の中で、抜きんでた「老舗企業大国」である。なによりもデータが証明している。創業200年以上の企業数を見てみよう。お隣の韓国にはゼロ、中国には4なのに、日本には1476(2022年3月時点、帝国データバンク発表)もある。

2位のドイツが200余りだから、他の追随を許さない圧倒的な第一位なのである。

「世界最古の企業」として有名な大阪の建設会社「金剛組」は、今年で1444年の業歴を誇る。開業した西暦578年は、ムハンマド(マホメット)がイスラム教を開く以前の時代である。つまり、世界中にイスラム教徒がひとりもいないころから延々と続く企業が、ここ日本には存在するのだ。

創業100年以上となると、3万7550社にのぼる。驚くべきは、その数が減るどころか、右肩上がりに増え続けている点だ。

私が老舗企業の取材を始める前には、「老舗」といえば昔ながらの家業を地道に営む、非常に守旧的なイメージが強かった。ところが、老舗企業の大半の実態はまったく違う。「伝統は革新の連続」という言葉に象徴されるとおり、「守り」ではなく「攻め」の、進取の気性に富む組織ばかりなのである。「静」ではなく「動」の組織と言ってもよい。

その共通項は3つ――、「適応力」「許容力」「本業力」である。

「適応力」とは、時代の変化に応じて、柔軟に姿を変えていく能力を指す。京都の「福田金属箔粉工業」(1700年創業)は、和服や仏壇などの装飾に用いられる金箔・銀箔や金粉・銀粉を長らく製造してきたが、伝統的な箔粉の技術を活かして、ケータイやスマホからの電磁波を防ぐ「電磁波シールド」を世界で初めて開発した。

息子は選べんが、婿は選べる

東京の「田中貴金属工業」(1885年創業)は、明治初期の、かんざしなどの飾り物の職人が出発点だ。それがいまや、スマホのバイブレーション機能に欠かせない極小ブラシを創り出し、世界中に販路を広げている。スマホばかりではない。さまざまなIT機器や電気自動車、産業用ロボットといった最先端製品の至るところに、日本の老舗企業の技術が組み込まれているのである。

次の「許容力」は、時代の変化を許容する力はもちろんのこと、「他人」を受け入れる力をも意味する。日本以外の、とりわけアジアの国々では、家業の後継にはたいてい長男が選ばれる。一方の日本でも「一族経営」が話題になりがちだが、全体を見渡せば、意外にも長子相続にこだわらない。長男が経営に不向きなら、有能な娘婿や養子、信頼の厚い部下にトップを任せる。「血族」ではなく「継続」を最優先するからだ。大阪の船場には「息子は選べんが、婿は選べる」との格言さえある。他人を積極的に受け入れ登用してきたところに、縁をたぐりよせる力すら感じさせるではないか。

ぶれることなく本業を貫く

最後の「本業力」とは何か。文字通り、本業を大切にする力ではあるが、そこにひとひねりもふたひねりも加わる。例えば、四国・香川の「勇心酒造」(1854年創業)は、江戸時代末からの造り酒屋だが、清酒の原料であるコメの潜在力をひきだし、画期的な新製品を世に送りだしてきた。

なかでも注目されたのが、アトピー性皮膚炎にきわめて有効で、従来多用されてきたステロイド剤の副作用がない液剤である。一見コメとは無関係のように見えて、「コメの発酵技術を活かす」という本業からは一歩も外れていない。

文(写真も) 野村 進 氏


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年8月号「特集1【寄稿】」から抜粋したものです。

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