『理念と経営』WEB記事

笑顔を広げるかぎり、その企業は永続する

オタフクホールディングス株式会社 代表取締役社長 佐々木茂喜 氏

今年11月に創業100周年を迎えるオタフクソース。創業者の血を受け継ぐ佐々木茂喜社長は「企業永続にはコーポレートガバナンスとファミリーガバナンスの両軸が欠かせない」と語る。国内外900名超の社員を抱えるお多福グループに根付く「愛される力」に迫る。

広島の戦後復興と共に歩んできた歴史と姿勢

1922(大正11)年、佐々木茂喜社長の祖父が広島市で創業した醤油類卸と酒の小売業「佐々木商店」が現在のお多福グループの原点である。52(昭和27)年にお好み焼き用ソースを誕生させて以降、お好み焼きと共に歩み、2022(令和4)年11月に創業100周年を迎える。

原爆投下によって焼け野原と化した広島では、戦後、米軍から支援物資として配給された小麦粉を鉄板一枚で調理できる手軽さから、お好み焼きが普及した。屋台が登場し、生活を立て直そうとする女性が自宅の土間で開業するなどして店も増えた。

お好み焼きに合うソースが欲しいという店の要望に応えて、とろみのあるソースを開発。こくのある甘みを出すためにデーツ(ナツメヤシの実)を原材料に加えるなどの改良をかさね愛好者を広げてきた。

「私たちはモノを売るのではなく、コトを売ってきました」

そう話すのは、佐々木茂喜社長だ。

全国のスーパーに出向いてお好み焼きをつくり試食販売を行なう。開業希望者向けに、お好み焼きづくりの研修を実施する。こうした取り組みが奏功し、今や「お好みソース 500g」は、全国のスーパーなど小売店の90%近くで扱われるようになった。

「非効率だったかも知れませんが、テレビCMなどマス広告に頼らず、お客様と直接コミュニケーションをとりながら地道にファンをつくってきました」

佐々木社長は「戦略や戦術という言葉は使わない」と話す。

「誰かと戦っているわけではないからです。同業他社とシェアを争奪するのではなく、お客様に『今日はお好み焼きにしよう』と思っていただけるようにすることが私たちの目標なのです」



本社から徒歩3分の場所にある「Wood Eggお好み焼き館」。お好み焼きの歴史や同社創業のきっかけ、経営理念などを学ぶことができ、お好み焼きづくりも体験できる

ものづくりの要は人――日本的経営に立ち返る

オタフクホールディングスはお多福グループを束ねる持株会社だ。グループは、ソース、酢、お好み焼き関連商品、天かすの開発・製造・販売および包装・梱包・発送を手がける国内5社と、中国、米国、マレーシアの海外3社で構成される。

佐々木社長は創業者佐々木清一氏の孫。二代目社長だった父が早逝し、叔父三人が社長業を引き継いだ後、2005(平成17)年にオタフクソースの6代目社長に就任。56歳で退任し、現在はホールディングスの社長としてグループ企業を支援する。そのグループ企業は、国内外を問わず「日本的経営」に軸足を置いている。

「ものづくりの要は人です。長く勤めて習熟度を高めてもらうことが重要。だから人を押しのけてという人間ではなく、お互いの存在や価値観を認め合い、利他の気持ちをもって動ける人間を私たちは求めます」

社員を労働者としてではなく、同じ志をもつ仲間として扱う。「従業員」とは言わず、「社員」と言う。働きやすい、働きがいのある環境を整えることに注力し定着率も高い。

「グローバルスタンダードと対立する部分もあるかもしれませんが、社員が“自分たちの会社”という意識をもって、同じ志、同じ価値観で仕事に取り組む日本的経営は優位性の高い経営だと私は捉えています」

お多福グループの理念には、創業者の「一滴一滴に性根を込めて」「水は溜めておくと腐る」といった言葉が受け継がれている。「ものごとはすべて善意に解釈し、感謝の心で明るく前向きに積極的に行動します」は、社員心得だ。

社員が理念への理解を深めるため、佐々木社長は二つのことを重視している。

一つは非日常空間での体験だ。研修施設での合宿や、歴史上の偉人ゆかりの地を訪ねるなど、オリジナルの体験学習を行っている。

「海外旅行の思い出を忘れられないように、非日常空間での体験は記憶に深く刻み込まれます」

二つ目はリベラルアーツ。「一般教養を広く深く身につけることによって、人はものごとの理解力を高める」と、社員が本を買ったり旅をしたりするのを補助する制度を設けている。

こうした教育の仕組みによって、お多福グループの社員は仕事のみならずあいさつも掃除も自発的に行うようになったという。



「キャベツ農場研修」の様子。新入社員がお好み焼きに欠かせないキャベツを畑で育てて収穫する

取材・文 中山秀樹
撮影 編集部
写真提供 オタフクホールディングス株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年8月号「特集1」から抜粋したものです。

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