『理念と経営』WEB記事
特集1
2022年8月号
思い切った大胆な挑戦が、 会社を目覚めさせていく

サントリーホールディングス 代表取締役社長 新浪剛史 氏
ワイン、ウイスキー、ビール……。日本の洋酒文化を切り拓くべく、数々の事業にチャレンジし、イノベーションを起こしてきたサントリー。123年にわたる挑戦の歴史に宿った「やってみなはれ」のカルチャーは、いかにして醸成されてきたか―。
米ビームの経営統合も「やってみなはれ」
―サントリーといえば、創業以来の「やってみなはれ」精神が知られています。
新浪 社長になる前に、佐治信忠会長から創業者について書かれた書籍『美酒一代~鳥井信治郎伝~』(杉森久英著 新潮社)をいただいて読んだのですが、その精神は今も脈々と受け継がれているんだな、と感じました。約1兆6000億円の巨費を投じた米ビームの買収や、創業家以外から私を社長にしたことも「やってみなはれ」だと思います。思い切った大胆な挑戦が、社内に刺激を与え、成長につなげる。それが、サントリーのDNAです。
当初の私の最大のミッションは、ビームをいかにサントリーグループとして統合するか、でした。「悠々として急げ」かもしれないけれど、サントリーを理解してもらうこと、つまり「やってみなはれ」を植え付けることが重要だと考えました。ビームは上場企業でしたから、当時の経営陣は今あるものを最大限活用し短期的に収益を上げていく意識が強かった。それをいかに挑戦する風土に変えていくか。120年以上続いているわれわれの成長のDNAを浸透させることだったのです。
「サントリー大学」を設立した狙いとは
―そのために、さまざまな「仕組み」をつくられましたね。
新浪 日本では、サントリーのDNAは空気のようなもので、意識しなくても社内に浸透していきます。しかし、グローバル化を進めるためには、意識的にやっていかなければなりません。仕組みとは、つまりカルチャーにしていくことなのです。
例えば2015(平成27)年に「サントリー大学」を設立しました。世界中のサントリーグループの幹部社員や選抜された幹部候補者と日本の幹部が一堂に会し、サントリーとは何かを理解してもらいました。創業家の方々に登壇してもらい、居酒屋など消費の現場にも行き、新しい需要を生み出すとはどういうことかも学んでもらいました。日本発のグローバルな消費財のリーディングカンパニーとして成功したいという思いと、一方で大切にすべき核となる価値観を共有しました。実際にわれわれが主導して「やってみなはれ」も知ってもらいました。ビームとサントリーのウイスキーづくりのレジェンドである二人が共同し、「リージェント」を開発したことも、その一つ。
また、日本のハイボールを米国に持ち込みました。日本と違い、ウイスキーをソーダで割ってリフレッシュを提供する、という考え方は米国にはありません。それでもさまざまな取り組みを考えて少しずつ広がり、今では3000店もの飲食店が扱うまでになっています。そしてこれが、シンガポールやタイ、上海でも展開するようになっています。
おかげさまでビームの統合はとてもうまくいき、ビームサントリーの企業価値は3倍以上になりました。
次の時代を見据え、もっと”おもろい会社“に
―数々のチャレンジ、イノベーションを実現させてきましたが、変えるもの、変えないものという「不易流行」のバランスをどう取っているのでしょうか。
新浪 サントリーはマーケティングが上手な会社だと実は私も思っていたのですが、入社して驚いたのは、品質に対する真摯な取り組みでした。これを社員全員が共通して持っている。お客様の期待を上回る品質の追求を常に目指しています。
取材・文 上阪 徹
撮影 鷹野 晃
本記事は、月刊『理念と経営』2022年8月号「特集1」から抜粋したものです。
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