『理念と経営』WEB記事

古民家を再生し、まち全体を宿泊施設に

株式会社NOTE 代表取締役 藤原岳史  氏

地方再生事業「NIPPONIA(ニッポニア)」を全国で展開する株式会社NOTEは、古民家を活かす“デベロッパー”。「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」という理念のもと、数々の地方再生プロジェクトを手がけ、過疎化したまちをよみがえらせている。

限界集落で「暮らすように」滞在

古民家の原形を大切に残しつつ、水回りなどは使いやすく今風にリノベーション。モダンでシャレた雰囲気に仕上げたインテリアの宿泊施設や、カフェとして生まれ変わった古民家が点在する集落に、感度の高い観光客が「暮らすように泊まる」体験を求め、続々と訪れている。

NOTEを率いる藤原岳史さんの出身地は兵庫県丹波篠山市。故郷にほど近い限界集落の丸山で、空き家となった築150年を超える古民家数軒を2009(平成21)年に再生させたことが端緒となり、本格的にNIPPONIA事業に取り組むようになった。

「前職では東京のITベンチャーに勤めていましたが、会社が上場した07年に退社しました。ITは場所を問わずに使えるのに、クライアントの98%が東京や大阪の企業だったのが疑問で、今後は地方のためにITスキルを活かしたいと思ったんです。僕自身も田舎から都会の大学に入り、就職したわけですが、実家に帰る度に過疎化していく故郷を見ると、やっぱり寂しくなったんですね。一度離れたことで、自然豊かな故郷の良さもわかるようになりました」

最初は公的施設の管理業務といった役割で、故郷のまちづくりに携わった。知り合いを介して当時の篠山副市長・金野幸雄さんと出会い、共に一般社団法人ノオトの創業に参加。歴史的建造物の保存・活用、調査を行うなかで、限界集落の課題を抱えていた丸山という土地に関わりを持つことになった。

“宿泊”が必要な2つの理由

古民家を地域再生の目玉にするという発想は、住民へのヒアリングで聞いた「ここにあるのは空き家ぐらいや」という言葉がヒントとなった。今でこそ、古民家のリノベーションはトレンドだが、当時はまだ珍しい試みで、ノウハウも手探り。古民家と一口に言っても、土地特有の環境に合わせ、一棟ごとの個性を活かしたリノベーションが必要だ。空き家を活かすと同時に、古民家再生技術を持つ職人も要る。課題は山積みだった。それでも、地域再生するためには宿泊を基点とするべき、というビジョンも持っていたため、チャレンジしたという。

「宿泊が必須の理由は主に2つあります。都会のホテルと違い、集落での宿泊は予約が普通ですから、お客さんが来る日に合わせて仕事の合間を縫って準備ができます。そして、宿泊を伴う旅行のほうが、日帰りより経済的な効果が大きい。非日常空間の古民家でゆっくり滞在を楽しんでいただき、できるだけその土地ならではの体験をしてもらいたいのです」

一般社団法人ノオトとは別に、あえて株式会社NOTEを設立したのは、一般社団法人でできる範囲は限られるから。NOTEでは再生した古民家のリーシングやPR、マーケティング、宿泊予約ができるサイト作成など、地域側にノウハウが足りない部分の業務を請け負う。土地や建物をマネージングして収益化を図るデベロッパーに近いという。ビジネスとして継続させていくには、やる気のある人のボランティア精神に依存していては続かない。

「株式会社として動けば、法務や資金調達方法などをうまく流用して、スケールメリットを活かせます。また、持続可能な事業にしていくには再現性が必要で、まちづくりを一つの産業にできれば、後に続く人もどんどん出てくるはず。“まちづくりの人”を子どもたちの憧れの職業にするのが目標です」


取材・文 中沢明子
写真提供 株式会社NOTE


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本記事は、月刊『理念と経営』2022年7月号「特集1」から抜粋したものです。

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