『理念と経営』WEB記事

第18回/『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)2――100年時代の行動戦略』

「人生100年時代」告げた世界的ベストセラーの続編

本書は、2016年に刊行され、世界的ベストセラーとなった『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の続編です。

6年前の正編は、いまやすっかり一般語になった「人生100年時代」を、日本に広く知らしめる役割を果たしました。
“100歳まで生きることは、いまはまだ稀な長寿だが、半世紀後には稀ではなくなり、一世紀後にはあたりまえになる”と、さまざまなデータから「人生100年時代」の到来を告げた内容は、衝撃的でした。

「人生100年時代」には、働き方など、ライフスタイルのあらゆる面に激変が起きます。
たとえば、いまのような“60代で仕事をリタイアする時代”は終わり、人は80代まで現役で働くのが普通になると考えられるのです。
と同時に、「教育→仕事→引退」という「3ステージの人生」が成り立たなくなり、人生の道筋を何度も移行する(定年後に再教育を受け、新たな職に就くなど)「マルチステージの人生」が普通になると、著者たちは予測しています。

そのような激変――すなわち「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」にどう備えたらよいのかを、さまざまな角度から提言した内容だったのです。

ちなみに、著者は2人ともロンドン・ビジネス・スクールの教授。アンドリュー・スコットは経済学者であり、リンダ・グラットンは人材論・組織論の世界的権威です。

正編は、邦訳(2016年10月刊)が日本で42万部突破の大ベストセラーになりました。そのこと自体、「人生100年時代」に対する関心の高さを示しています。
当然でしょう。日本は世界最高の長寿国であり、世界で最も速く少子高齢化が進行している国なのですから……。

じっさい、正編には随所に日本に対する言及がありました。
“国連推計によれば、日本の100歳以上人口は2050年までに100万人を突破すると考えられている”ことや、《2007年に生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されている》ことなど……。

「日本語版への序文」で、著者たちはこう呼びかけていました。

《いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがよい》

それから5年を経て昨年11月に刊行されたこの続編も、世界中のどの国にも増して、日本で読まれるべき一冊と言えます。

7人のキャラクターを読者が手本にする「実践編」

では、正編と続編はどこが違うのでしょう?
正編の副題は「100年時代の人生戦略」でしたが、この続編には「100年時代の行動戦略」という副題がつけられています。つまり、「人生」が「行動」に置き換えられたわけです。

そのことが示すとおり、正編が「理論編」だとすれば、本書は読者の行動に直結する「実践編」となっています。

そのために著者たちが取ったのは、国・年齢・立場の異なる7人の架空のキャラクターを登場させ、彼らの姿を通じて読者に行動を促す手法でした。

7人はたとえば、ロンドン在住の30歳のシングルマザーであるエステル、アメリカのテキサス州で働く40歳のトラック運転手トム、イギリスの71歳の元エンジニアであるクライブ、インドのムンバイで専門職としてフリーランスで働く20代後半の女性ラディカ……などという面々です。
架空とはいえ、それぞれが豊富な事実を踏まえて練り上げられたキャラクターであり、「どこにでもいる誰か」としてのリアリティがあります。

そして、メイン・キャラクターともいうべき重みで登場するのが、「日本の金沢市で暮らす20代半ばのカップル」――ヒロキとマドカです。
正編同様、本書でも日本への言及は多いのですが、ヒロキとマドカの扱いの大きさはその象徴となっています。
リンダ・グラットンによる「日本語版への序文」には、次のような一節があります。

《「新しい長寿時代」の核を成すのは、マルチステージの人生と幅広い選択肢だ。本書では、 2 人の日本人のキャラクター、ヒロキとマドカを登場させ、このカップルがどのような道を選びうるかを描き出した。(中略)
多くの日本企業ではキャリアの道筋に柔軟性が乏しく、本書で描いたような人生の道筋を歩むことは難しい。マドカは、女性として、そして母親として、とりわけ大きな試練に直面すると予想できる》

7人のキャラクターはそれぞれ、人生100年時代の「ライフ・シフト」のサンプルとして描かれます。読者は彼らを通じて“いま必要な行動”を知ることができるのです。中でも、ヒロキとマドカやその家族は、我々日本人にとって身近に感じられるでしょう。

たとえば、第1章「私たちの進歩」には、ヒロキについての次のような一節があります。

《向こう数十年の間に、雇用とキャリアを取り巻く状況は大きく変わっていく。ヒロキの父親は、職業人生を通してひとつの会社で働き続けた。いま 20 代前半のヒロキは、自分がそのような人生を送ることを想像できない。テクノロジーが力強く進歩していることを考えると、 1 種類のスキルで職業人生を乗り切れるとは考えにくい。それに、テクノロジーは企業の世界も大きく変えている。いまどこかの会社に就職したとしても、その会社が自分の引退まで存続するとは思えない》

いま就職した会社が、約40年後にそのままあるとは考えにくい――そんな時代に私たちがどんな行動を選択すべきかのヒントが、本書にはちりばめられているのです。

テクノロジーの進化と長寿化の進展の相互作用

正編との大きな違いはもう一つあります。それは、この続編が“テクノロジーの進化が長寿化に及ぼす影響”にかなりの紙数を割いていることです。
「はじめに」には、次のような文章があります。

《本書は、幸い好評を得た前著『ライフ・シフト── 100 年時代の人生戦略』(邦訳・東洋経済新報社)の刊行後、著者 2 人が多くの人と交わした会話から生まれた。そうした会話で人々が聞きたがるのはいつも決まって、長寿化だけに関わる問題ではなく、テクノロジーの進化と長寿化の進展の組み合わせによって生まれる問題についてだった》

《著者 2 人の専門は、経済学(スコット)と心理学(グラットン)だ。この 2 つの視点を組み合わせることにより、幅広い見識を提供したい。テクノロジーの進化と長寿化の進展の相互作用を深く理解し、人類が繁栄するためにどのような社会的発明が必要かを知るためには、広い視野でものごとを見る必要があるからだ》

「テクノロジーの進化と長寿化の進展の相互作用」は、今後の世界をどう激変させていくのでしょう?
たとえば、AI(人工知能)とロボット工学の急速な進歩は、巷間言われるように私たちの雇用を破壊し、大量の失業者を生むのでしょうか? だとしたら、私たちはいま、80代まで働き続けるため、どのようなスキルを磨き、どのようなキャリアを積んでいくことが望ましいのでしょう?
本書は、そのような問いにも一つの答えを出してくれる内容です。

また、正編・続編に共通する特徴として、著者たちが長寿化のポジティブな側面に目を向けていることが挙げられます。
私たちは、就労期間の長期化と聞くと、長寿化をネガティブな変化と捉えてしまいがちです。しかし、著者たちは一貫して長寿化を「恩恵」と捉え、その恩恵を最大化する方途を探っているのです。
本書に登場する「長寿の配当」という言葉が、そのことを象徴しています。

《日本は世界のどの国よりも、長寿化と健康の改善を経済成長に結びつけ、いわば「長寿の配当」を経済面でも獲得する必要がある》(アンドリューによる「日本語版への序文」より)

人生100年時代に向け、企業はどう変わるべきか?

なお、本書は全8章のうちの第6章を「企業の課題」と銘打ち、「人生100年時代」に向け、企業はどう変わっていくべきかをさまざまな角度から論じています。

人々のライフスタイルそのものが激変していくのですから、それに応じて企業のあり方も変わっていくべきなのはいうまでもありません。

たとえば、「入社年齢を多様化する」こと、「新しい退職の形をつくり出す」こと、「年齢差別をなくす」こと……さまざまな変化が求められています。

すでに中小企業の喫緊の課題となっているシニア世代人材の活用についても、この第6章は大きな示唆を与えてくれるでしょう。
本書全体が中小企業経営者にとって学びの多い内容ですが、とくにこの章は必読です。通読する時間がない場合、この章だけでも一読することをおすすめします。

アンドリュー・スコット&リンダ・グラットン著、池村千秋訳/東洋経済新報社/2021年10月刊
文/前原政之

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